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プロダクト組織の設計と意思決定

2024-2-6

宮田 善孝 / Yoshitaka Miyata

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プロダクト自体の特性やフェーズ、競争環境において、プロダクト組織のあり方は変化します。では、プロダクトとしての組織設計をどのように捉え、行っていくべきなのでしょうか。本記事では、フェーズごとのプロダクト組織を確認しながら、意思決定への影響を軸にその解像度を上げていきたいと思います。

中央集権型と自律分散型によるプロダクト組織への影響

まず、一般論として組織における権限や意思決定の構造には、中央集権型と自立分散型という大きく2つのアプローチがあります。

中央集権型は意思決定や権限が経営陣や中央の管理者に集中している構造を指します。権限に併せて、階層ごとに情報共有も設計されていて、意思決定までのエスカレーションルールによって一定の手続きが要求されるので、全体感を維持できますが、逆にスピード感は出にくくなります。

他方、自律分散型の場合は意思決定や権限が分散し、各部門やチームが独立して判断し、推進していく構造を指します。権限に併せて情報共有を行いますが、細かく設計しても運用に耐えられないため、広く共有しているケースが多いです。そのため、随所でタイムリーに意思決定でき、実行に移せますが、全体的な統制や全社的に取り組む場合、かなりの調整コストが要求されます。

この説明だけだと、プロダクト組織は自律分散型が良いと思われがちですが、もちろん両者にそれぞれメリット、デメリットがあります。 まず、中央集権型を採用した場合、経営陣がプロダクトビジョン、ロードマップ、リソース配分について確認し、意思決定することになります。そのための下準備として、プロダクトマネージャーはプロダクトビジョンを咀嚼し、ロードマップのドラフト作成を行います。無事経営陣からお墨付きを得られたら、PRDの作成、開発ディレクション、効果検証を進めていきます。

この構造では、プロダクトマネージャーは抽象度の高い意思決定から解放されます。そのため、ジュニアメンバーを採用し、育成する余地ができます。中途採用頼りの組織構築ではなく、プロダクトマネージャーの育成プログラムを拡充し、成長を促す基盤構築が組織における差別化要素になります。

次に、自立分散型を採用した場合、経営陣は会社全体のミッション、ビジョン、バリュー(以下、MVV)の策定に止め、プロダクトマネージャー陣によるアウトプットを元に、CPOやVPoPがプロダクトビジョンをまとめていく形になります。経営陣から提起されたMVVを元に担当エリアのプロダクトビジョン、ロードマップの策定を主体性を持って行っていきます。

担当領域の意思決定を各プロダクトマネージャーが行うので、会社全体の状況を俯瞰でき、全社視点で担当領域の意思決定ができることが求められます。個別最適にならないように、自分の視点を上げることは想像以上に困難を伴い、かなり採用要件を上げてしまうことになります。そして、ここまで要件が上がってしまうと誰でもできるようになるわけではないので、育成よりも、中途採用に力を入れ、組織構築することになるでしょう。

このように、中央集権にすることでプロダクトマネージャーとしての権限は一部制限されるものの、組織構築のオプションは広がります。他方、自立分散だと権限は広く、プロダクトマネージャーとしてのやりがいは訴求しやすいですが、その分採用できる幅を狭めてしまいます。

また、プロダクト組織だけで決められる論点でもないため、会社全体としてどちらの構造なのか見極める必要があります。経営陣のバックグラウンドなどにより、得意なテーマは比較的中央集権型ですが、他は自律性が担保されているようなこともあります。 組織設計が権限や意思決定に大きく影響を与えるポイントですので、しっかり見極め、自分が何を求められているのか考え、アウトプットすべきでしょう。

フェーズ別プロダクト組織の構造

プロダクトや事業の進捗などのフェーズに応じて、プロダクト組織の構成はフラット組織、ファンクショナル組織、事業部組織の3つがあります。その特徴を確認した上で、意思決定のあり方について詳述していきます。

1.フラット組織

まず、フラット組織とはスタートアップ設立時や新規事業の展開初期によく見れられる形式で、経営陣と従業員という2階層しかなく、レポートラインをシンプルにし、上下関係の調整を排除した組織構造を指します。とにかく生産性に焦点を当てて、プロダクトローンチやPMFに集中するために活用されます。

自律分散型組織の原理を極限まで高めた組織で、非常に高い自律性を求められ、マインド、スキルともに最高クラスの人員でしか成立し得ない組織構造です。 この組織が維持できるのは、20−30人までと言われており、組織を構成する人員が増えるに連れて、経営陣の調整コストが指数関数的に上がってきます。そのため、どのタイミングで、次に説明するファンクショナル組織に移行するのか、事前に検討し、遅滞なく移行することが重要です。

2.ファンクショナル組織

プロダクトマネージャーだけいてもプロダクトを進化させることは難しく、エンジニアやデザイナーと協働することになります。このファンクションに着目し、組織設計を行ったものが、ファンクショナル組織になります。スキルや専門性などのファンクションを部門として認識できるようにし、各部門の責任者として、CPO/VPoP、CTO/VPoE、CDO/VP of Product designなど各部門に責任者を立てることになります。

この組織を採用すると、中央集権型なのか、自律分散型なのかによって権限の幅がグラデーションしていきます。つまり中央集権型であれば、プロダクトの方針は事業に直結することから、プロダクトビジョンやロードマップの意思決定はCEOを中心とした経営陣で持つことになります。逆に、自律分散型であれば、個々のプロダクトマネージャーがMVVを念頭に置いた上で、自身の担当領域に対して権限を持つことになります。またこれらの中庸として、プロダクトの責任者であるCPO/VPoPが主体的に決めていく権限を持つこともあります。 意思決定を中央に寄せれば寄せるほど、調整コストが上がり、意思決定までの時間がかかりますが、その分全体像を俯瞰し、大きい意思決定ができるというメリットがあります。また、権限を分散させればさせるほど、採用要件が上がり、組織としてスケールすることが難しくなってきます。

レイターステージになればなるほど、自分の裁量を意識するシニアなプロダクトマネージャーの採用が難しくなっていくため、なんらかの形で権限を寄せて、ジュニア層の採用を担保する必要が出てきます。

3.事業部制組織

事業部制組織とは、社内に自己完結型のビジネスユニットを構築している組織を指します。個々のビジネスユニットが持つ権限や責任を完遂できるように設計されます。昨今のIT企業だと、基幹プロダクトのPMF直後から新規プロダクトの検討が始まったり、Fintechなど金融関連ビジネスを行うため、子会社を設置するなど、かなり早いタイミングから部分的に事業部制組織が導入されることがあります。

文字通り、複数の事業部を立てて、独立に動くことを前提にすると、200−300人以上の従業員規模が必要になります。感覚的ですが、500−1000人ぐらいの規模になって初めてしっかり移行する企業が増えてくるように思います。さらに、事業部制の場合、どのような軸で事業部を分割していくかによって、タイプがわかれます。具体的には、プロダクト/機能別、ユーザーセグメント別、KPI別などで編成することになります。

A.プロダクト/機能別

プロダクト、機能別はその文字の通り、プロダクトまたは機能ごとに事業部を編成します。そのため、プロダクト、機能ごとに1人以上のプロダクトマネージャーを配置し、ユーザーリサーチ、データ分析、機能の企画を担当します。そして、ビジネスサイドと連携しながら、目標達成に向け、推進していくことになります。

この組織設計は、幅広いプロダクトラインナップがあり、様々な場所に開発拠点がある場合などで、採用されることが多いです。独立したプロダクトや機能ベースで組織することで、他の事業部とのカニバリが少なくなりやすいです。

しかし、他事業部と独立で組織編成し、連携の必要性が低いため、同じ論点を違うタイミングで取り組む可能性があり、事業部を超えた情報共有が全く無くてよいわけではありません。また、プロダクト全体に共通する問題を議論するために、異なる事業部のプロダクトマネージャーが互いにコミュニケーションをとることも重要になります。

B.ユーザーセグメント別

ユーザーセグメント別に事業部を組織することで、特定のユーザーセグメントにとって、関心の高いプロダクトや機能を開発でき、特定の顧客のニーズを深く満たすことに繋がります。このような組織設計を行う企業では、ニーズやペインポイントの理解、開発優先順位、施策の企画など、プロダクトマネージャーが行うすべての業務はユーザを中心とした価値創造に焦点が自然と当たります。

プロダクトを使うユーザーに焦点を当てているがゆえ、複数のユーザーセグメントに影響がある機能拡張を行う際、事業部を超えて調整を行う必要ができてしまいます。この組織設計は必ず、そのセグメントに併せた独立のUIを設計したいという企画が走り出します。この企画を一度リリースすると、基本的に不可逆的な意思決定であり、UIのメンテナンスコストが2倍以上になり続けるため、相当慎重に検討を行う必要があります。

C.KPI別

最後に、主たるKPIをチームの目標とし、それを向上させるために、事業部を編成する設計があります。これ設計は売上などを起点にKPIツリーを設計でき、最も細かいKPIが特定のユーザアクティビティに直結するケースに置いて効力を発揮します。具体的にはソーシャルゲームなどB2C系のプロダクトと相性がよいです。ただし、事業部として切り出す以上、ある程度の安定性を持ったKPIが不可欠であり、B2Cでもプロダクトとしての型が見えた後の採用になります。

逆にSaaSのように機能をバンドルしてユーザーに提供している場合、ビジネスインパクトとユーザーアクティビティが紐付きにくいため、KPI別の組織設計の採用は部分的にならざるを得ません。例えば、サインアップや課金導線の最適化など、施策がビジネスインパクトに直結する部分のみ切り出して採用する形になることが多いです。

1つずつ組織設計を行う際の軸を確認してきましたが、どれか1つの軸をベースに組織構成を行い切るのではなく、部分的にプロダクト、ユーザセグメント、KPIを組み合わせて設計することも多いです。例えば、買収したてのスタートアップがまだPMI(Post Merger Integration)していない時期はプロダクト別にならざるを得ないですし、新規事業なども切り出して進められる傾向が強いです。プロダクト横断で取り組むべき特徴的なユーザセグメントだけ切り出すこともありますし、KPIも確立したものだけ、KPI別に組織化することもあります。むしろ、何か一つを軸にきれいに組織設計されることの方が稀かもしれません。

意思決定という観点では、これらの事業部制を採用する場合、独立のビジネスユニットとしての運営が求められるため、予算、採用に関して権限を持つことになります。CEOを中心とした経営陣は、ビジネスパフォーマンスの確認と事業部を横断したリソースの調整、全事業部横断のプロダクトビジョンの策定など、抽象度の高い業務に焦点を当てることになります。

まとめ

フェーズごとのプロダクト組織の変遷を確認しながら、その中でどのような意思決定の特徴があるのか順を追って見ていきました。プロダクト組織は、フェーズによっても、プロダクトの特性によっても、その最適な形は変化し続けます。常に最適な組織設計を考えながら、スクラップアンドビルドし続けることが答えかもしれません。

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著者について

宮田 善孝(みやた よしたか)。 京都大学法学部を卒業後、Booz and company(現PwC Strategy&)、及びAccenture Strategyにて、事業戦略、マーケティング戦略、新規事業立案など幅広い経営コンサルティング業務を経験。DeNA、SmartNewsにてBtoC向けの多種多様なコンテンツビジネスをデータ分析、プロダクトマネージャの両面から従事。その後、freeeにて新規SaaSの立ち上げを行い、執行役員 VPoPを歴任。現在、Zen and Companyを創業し、代表取締役に就任。シードからエンタープライズまでプロダクトに関するアドバイザリーを提供。ALL STAR SAAS FUNDのPM Advisor、およびソニー株式会社でSenior Advisorとして主に新規事業における多種多様なプロダクトをサポート。また、日本CPO協会立ち上げから理事として参画し、その後常務執行理事に就任。米国公認会計士。『ALL for SaaS』(翔泳社)刊行。


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