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Transformation

世界中の成長企業が選ぶ理由:Stripeが提供する次世代の金融基盤

2025-5-12

ROUTE06 Research Team

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インターネットを基盤とする経済活動が加速するなかで、決済は単なる取引処理を超え、企業の成長戦略や顧客体験の中核を担う領域へと進化しています。なかでも注目されているのが、世界中の成長企業に採用されている決済インフラ「Stripe」です。 本記事では、Stripeがどのようにしてその地位を確立したのかを紐解きながら、プロダクトの技術的優位性、サービス拡張戦略、顧客導入事例、競合との比較評価、さらにはAIやサステナビリティへの取り組みまで、同社が描く「次世代の金融基盤」としての全体像を多角的に解説します。

インターネットのGDPを増やすという使命

Stripeは、2010年にコリソン兄弟によって創業された決済インフラ企業です。シリコンバレーのスタートアップからグローバル企業まで、幅広い事業者が導入しており、オンライン決済の常識を覆した存在として注目を集めています。現在、Stripeは「インターネットのGDPを増やす(Increase the GDP of the Internet)」というミッションを掲げており、決済にとどまらず、インターネット上の経済活動全体の成長を支えることを目指しています。

創業当初は、オンラインで決済機能を実装するには複雑な手続きと高い開発コストが伴っていました。Stripeはその課題を解決し、数行のコードで導入可能なAPIを開発しました。これにより、エンジニアが短時間で安全かつ柔軟に決済機能を導入できるようになりました。その後、ShopifyやLyft、Kickstarterといった企業が次々にStripeを採用し、同社は急成長を遂げていきました。

現在では、決済サービスにとどまらず、請求書管理、税務対応、資金管理、法人設立支援、さらにはAIを活用した不正検知までを含む、包括的な金融インフラとしての地位を築いています。2024年時点での年間決済総額は1.4兆ドルを超え、評価額は650億ドルに達しています。Stripeはそのビジネスモデルを通じて、グローバルなインターネット経済の発展に継続的に寄与しているのです。

創業から現在まで:Stripeの進化と組織文化

Stripeの創業ストーリーは、シリコンバレーの華やかな創業神話とは異なり、実直かつ課題解決志向の姿勢に貫かれています。アイルランド出身のコリソン兄弟、パトリックとジョンが、「オンライン決済の導入があまりにも煩雑で非効率である」と感じたことが、Stripe誕生のきっかけでした。

彼らは2010年にStripeを設立し、翌年にはY Combinatorでプロダクトを公開しました。ShopifyやKickstarterといった初期ユーザーの採用に成功して以降、AmazonやSalesforceなどの大手企業へと導入が広がっていきました。2024年時点での評価額は650億ドルに達し、従業員数は7,000人を超えています。

Stripeの組織文化において特徴的なのは、「外部向けPRよりもプロダクトとドキュメントで語る」という姿勢です。たとえば、開発者向けのエラーメッセージやAPIレスポンスの設計においても、Stripeは一貫してユーザー体験を重視しています。また、Stripe Pressという独自の出版事業を通じて、思想や価値観を世に問う姿勢も印象的です。

Stripeの創業理念には、ソフトウェアの力で金融の構造を再設計するというビジョンが根底にあります。それは、単なる「決済の簡略化」にとどまらず、ビジネスそのものの起点に働きかける試みであり、現在もその姿勢は変わっていません。
このような組織文化と思想が、Stripeを「決済会社」ではなく、「インターネット経済の中核を担う企業」へと押し上げているのです。

プロダクト構成と技術的優位性

Stripeの競争優位性の中核を成すのは、その包括的かつ拡張性の高いプロダクト群です。なかでも中核となっているのが「Stripe Payments」であり、これはオンラインおよび対面での支払いを安全かつ高速に処理するための統合決済プラットフォームとして設計されています。

Stripe Paymentsは、クレジットカード、Apple Pay、Google Pay、銀行振込、コンビニ決済など100種類以上の支払い手段に対応しています。グローバルに展開する事業者にとっては、現地に適した支払い手段を簡単に導入できる実用的な選択肢と言えるでしょう。導入企業は、195カ国以上の顧客から支払いを受け付けることが可能であり、越境ECや国際サービス展開において大きな利点となります。なお、Stripeのアカウント開設が可能な国・地域は50カ国強に限られているため、サービス提供国数とは異なる点には注意が必要です。このようなグローバルな決済対応力は、国境を越えるビジネスにとって極めて重要な要素となっています。

また、Stripeは開発者向けの体験(Developer Experience)にも強くフォーカスしています。APIは直感的で扱いやすく、豊富なドキュメント、明確なエラーメッセージ、テストツールが整備されており、導入のハードルを著しく下げています。不正検知機能「Radar」では機械学習が活用されており、リアルタイムでリスクを検知・排除することができます。これにより、オーソリ成功率(支払い承認率)を最大化しながら、不正決済のリスクを最小限に抑えることが可能になっています。

さらに、ユーザーインターフェースの洗練度も非常に高いです。Stripe Dashboardでは、トランザクションのステータス、顧客ごとの履歴、アラート通知、請求のステータスなどを一元的に確認できます。このように、ビジネスの成長と安全性を両立させる設計思想が、Stripeの全プロダクトに一貫して反映されているのです。

顧客起点で拡張されるサービス

Stripeが他の決済サービスと一線を画す理由の一つは、「決済のその先」を見据えたサービス設計にあります。たとえば「Stripe Billing」はその代表例であり、サブスクリプション型ビジネスや使用量ベースの課金を行う企業に対して、柔軟かつ自動化された請求管理機能を提供しています。特に、プロダクトバンドルの組み合わせや従量課金のモデル対応、利用者ごとの細かな請求ロジックの構築など、成長ステージに応じた最適な運用が可能です。

また、「Stripe Connect」はマーケットプレイス型の事業者向けに設計されており、支払いの分配や各国におけるコンプライアンス対応を支援します。UberやShopifyといった大規模なプラットフォーム企業がこの機能を採用しており、Stripeの信頼性と拡張性を裏付ける実績となっています。さらに、法人設立支援ツール「Atlas」や、資金管理ソリューション「Treasury」なども提供されており、企業のライフサイクル全体を包括的に支えるプロダクト構成が用意されています。

これらのサービスは、それぞれが単体で機能するだけでなく、相互に連携することでより高い付加価値を生み出します。たとえば、BillingとPaymentsを組み合わせることで、使用量に基づいた請求と決済処理を一貫して管理することが可能になります。このような一貫性ある設計思想は、Stripeが「金融のOS」として機能するための根幹であり、プロダクトの統合的進化を実現する基盤となっているのです。

顧客導入事例に見るStripeの価値と実践課題

Stripeの導入効果をより具体的に理解するには、Accentureの事例が非常に示唆に富んでいます。インド市場における少額決済インフラの構築にあたり、Accentureは迅速なプロトタイピングと国際的な決済手段の統合が必要でした。Stripeの選定理由は、グローバルな決済手段の網羅性、APIベースの柔軟性、そして導入スピードの3点です。

Stripeを採用することで、同社はわずか数週間でマルチチャネル決済インフラを構築することに成功しました。従来であれば数カ月かかっていたインテグレーション作業が大幅に短縮され、タイム・トゥ・マーケットが改善されただけでなく、運用コストの削減にもつながったと報告されています。ユーザー体験の面でも、支払い手段の多様化と高速な処理能力によって、エンドユーザーの離脱率が低下したとの評価を得ています。

一方で、事例から浮かび上がる課題も存在しています。例えば、Stripe Billingの一部設定項目については、他社の請求システムと比較してカスタマイズの自由度に制限があると感じる声もあります。また、税務機能との連携についても、特にグローバル展開を行う企業にとっては、さらなる改善が望まれる分野となっています。

それでもなお、Stripeの最大の強みは、開発者文化に根ざしたプロダクト哲学と、それを支える優れたドキュメントやテスト環境の存在にあります。顧客企業が自ら手を動かし、検証と導入を繰り返しながら段階的に機能を拡張できる構造は、変化の激しいビジネス環境において極めて有用です。Stripeは単なる決済ツールではなく、成長戦略の一環として選ばれる金融インフラであると言えるでしょう。

導入企業が語るStripeの実力と改善余地

Stripeのプロダクトは、幅広い企業に採用されており、その背景には開発者に配慮されたUX設計と、スピーディーな導入を可能にするプロダクト構成があります。たとえば、グローバルコンサルティング企業であるアクセンチュアのインド法人では、現地のデジタル決済プラットフォーム立ち上げにあたり、Stripeを導入しています。

インド市場特有の決済ニーズや法制度に対応する中で、StripeのAPIと請求管理機能は、柔軟性と開発スピードの両立を実現したと報告されています。プロジェクトを率いたSulabh Agarwal氏は、「従来なら数カ月かかる立ち上げが、Stripeにより数週間で完了した」と述べています。Stripe PaymentsやBillingのモジュールは、クレジットカードだけでなく、UPI(インドの即時送金システム)や銀行振込などのローカル手段にも対応しており、現地ユーザーの多様な決済ニーズを満たしてきました。

さらに、管理画面の視認性やAPIレスポンスのわかりやすさが、現地エンジニアチームの自走を支援した点も高く評価されています。ただし、導入後の運用において課題がまったくないわけではありません。アクセンチュアからは、「各国の税制に対する自動対応は、Stripe Taxの更なる進化が必要である」との指摘もあります。また、エンタープライズ特有の複雑な請求フローや、複数部門をまたぐ会計処理に関しては、追加開発が必要となる場面もあったとのことです。

これらの声を踏まえると、「Stripeは初期導入のしやすさと柔軟な拡張性に強みがある一方、エンタープライズ領域では慎重な設計と補完的な対応が不可欠である」と言えるでしょう。導入事例は、製品の成熟度だけでなく、企業のステージや業務要件に応じた適材適所の判断を促しています。

Forresterが評価したStripeの強みと選択のポイント

2025年2月に発表されたForrester Researchの「The Forrester Wave™: Recurring Billing Solutions, Q1 2025」では、Stripeは主要13社の中で「Strong Performer」と位置付けられ、技術的完成度、戦略の明瞭さ、開発者体験において高い評価を獲得しています。

同レポートでは、StripeがBillingとPaymentsを高度に統合している点に着目し、Stripe Paymentsとの連携により、決済データと請求処理の一貫性が高まり、業務の自動化やデータレポーティングの効率化が実現されていると評価しています。さらに、堅牢なアーキテクチャに加え、エラー通知やAPIドキュメントが充実していることから、「開発者から最も支持されているプロダクト」と評しています。

一方で、料金設定の柔軟性やエンタープライズ向けパートナーエコシステムといった側面では、ZuoraやBillingPlatformといった老舗企業に軍配が上がる場面もあります。例えばZuoraは、メディアや通信業界などの業種特化型モデルにも適応可能な複雑な価格設計機能を有しており、大企業の要件に対して高い拡張性を備えています。

StripeのISV(独立系ソフトウェアベンダー)との連携は発展途上であり、エンタープライズ環境における全方位的なエコシステム整備という観点では、今後の成長が期待されます。レポート全体としては、「Stripeはスタートアップや成長企業には極めて高い価値を提供しているが、業界特化型の複雑なニーズには追加検討が必要である」という中立的なスタンスを取っています。

この評価は、SaaSやD2Cビジネスのように市場投入のスピードとスケーラビリティを重視する企業にとって、Stripeが最適解となる場面が多いことを裏付けています。

今後の展望:AI・サステナビリティ・金融OSへの進化

Stripeは現在、決済インフラの枠を超え、インターネット上の「金融OS」としての地位を確立しようとしています。その鍵となるのが、AI技術との連携強化と、サステナビリティ分野への戦略的な取り組みです。 まずAI領域においては、StripeはOpenAIと連携し、ChatGPTの商用化を支援するプラットフォームを提供しています。具体的には、ChatGPTの有料版ユーザー向けにStripeの決済基盤を用いてサブスクリプション管理を実現しています。さらに、Stripe自身のプロダクト群においても、AIは既に実用段階にあり、特に不正検知機能「Stripe Radar」では機械学習が導入されており、リアルタイムでリスク判定と防御を行っています。

開発者体験の向上にもAIが活用されています。StripeのAPIドキュメントやエラーメッセージは非常に整備されており、自然言語処理を用いた検索補助やエラー分析支援などが実装されています。これにより、開発者は迷うことなく実装作業を進められる環境が整っており、Stripeが「開発者に選ばれる理由」として確かな説得力を持っています。

一方で、Stripeは気候変動対策にも積極的に関与しています。Stripe Climateという取り組みでは、ユーザー企業が収益の一部を炭素除去プロジェクトに寄付する仕組みが整備されており、既に数千社がこのプログラムに参加しています。Stripe自身も、科学者や技術者と連携しながら、再生可能なカーボンリムーバル技術の選定と資金提供を行っています。このようなアプローチは、単なるCSRを超えた「インフラとしての倫理的責任」の姿勢を表しています。

加えて、法人設立をサポートする「Stripe Atlas」や、企業の資金管理を支援する「Stripe Treasury」など、決済の枠を越えた包括的なサービス提供も進んでいます。これにより、Stripeは起業からグロース、決済、請求、会計処理、資金運用まで、企業のライフサイクル全体を支援するポジションへと進化しています。

これらの取り組みを通じて、Stripeは決済に留まらず、ビジネス全体の土台となる「金融OS」としての役割を強化しています。今後、より多くのSaaS企業、EC事業者、スタートアップが、Stripeを単なる決済手段ではなく、「ビジネスの中核を支える戦略的パートナー」として選択していくでしょう。

まとめ:なぜStripeは「次の金融のOS」として注目され続けるのか

Stripeは、金融の複雑さを抽象化し、開発者にもビジネスにも扱いやすい形で提供するという思想を一貫して追求してきました。これにより、決済インフラとしての機能にとどまらず、請求、税務、資金管理、さらにAIやサステナビリティといった将来を見据えた領域にまで対応する、包括的なビジネス基盤へと進化を遂げています。

とりわけ際立っているのは、開発者体験に対する徹底したこだわりです。わずか数行のコードで支払い処理を実装できるシンプルなAPI構造、明快なドキュメント、エラー通知の分かりやすさなど、あらゆる面で開発者に寄り添った設計がなされています。このような技術的な強みは、2025年のForresterレポートにおいても高く評価されており、Stripeが今後のSaaS市場やD2C市場において引き続き存在感を示していくことは確実です。

また、StripeはAIの活用や気候変動対策といった社会的な課題への取り組みにも積極的であり、単なる決済サービスにとどまらず、ビジネスと社会の両面において持続可能な価値の提供を目指しています。法人設立支援、資金管理、サブスクリプション管理といった機能を相互に統合し、成長企業のあらゆるフェーズをサポートできる点も、他の決済プラットフォームとは一線を画しています。

今後もStripeは、決済という枠組みを超えたサービスの拡張を通じて、企業活動の根幹を支える存在として進化を続けるでしょう。デジタルプロダクトを開発・提供する企業にとって、Stripeを選択することは単なる決済手段の導入にとどまらず、自社の成長と可能性を広げる重要な経営判断の一つになるはずです。
このように、Stripeは「金融のOS」として、技術的な優位性、柔軟なサービス設計、そして社会的責任を兼ね備えながら、世界中の企業にとって新たな選択肢と価値を提供し続けているのです。

参考文献

プラットフォームSaaS物流AI(人工知能)エンタープライズデジタルトランスフォーメーション

著者について

ROUTE06では大手企業のデジタル・トランスフォーメーション及びデジタル新規事業の立ち上げを支援するためのエンタープライズ向けソフトウェアサービス及びプロフェッショナルサービスを提供しています。社内外の専門家及びリサーチャーを中心とした調査チームを組成し、デジタル関連技術や最新サービスのトレンド分析、組織変革や制度に関する論考、有識者へのインタビュー等を通して得られた知見をもとに、情報発信を行なっております。


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