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XaaSの類型とメリット

2023-2-20

宮田 善孝 / Yoshitaka Miyata

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インターネットを介してソフトウェアを提供するSaaSを皮切りに、あらゆるものがサービス化されるXaaS(Anything as a Service)が近年のトレンドになっています。これまでオンプレミスで提供されていたソフトウェアとは違い、エンドユーザーはPCやスマートフォンといったデバイスを活用し、どこでもサービスを享受できるのがXaaSの特徴の一つです。本記事では、具体的にどのようなXaaSが存在するのか確認した上で、B2Bのサービスを中心にプロバイダー/ユーザー両面からXaaSのメリットを整理していきます。

XaaSの類型

既にXaaSは急速に普及し始めており、具体例を挙げようとすると、AからZまでリストアップして整理している文献まで出てくるほどです。ここでは、代表的なものをピックアップして紹介します。

ソフトウェアを提供する上での周辺環境のサービス化

SaaSの立ち上げ方とその特徴では、ソフトウェアのサービス化の類型としてSoftware as a Service、Platform as a Service、Infrastracture as a Serviceを紹介しました。他に代表的なものを2つほど紹介しておきます。

ID as a Service
  • ID管理を行うサービス
    • 例:Auth0、Okta
Network as a Service
  • ネットワーク構築やサーバ・クライアントの設定から設置までをサポートし、ネットワークのパフォーマンスを維持するサービス
    • 例:NTT Docomo

特徴的な手段のサービス化

分析やコミュニケーションなど、特徴的な手段がサービス化した事例もあります。こちらも主だったものを2つほど紹介します。

Analytics as a Service
  • クラウドを通して提供されるデータストレージや、解析、統計を行うサービス
    • 例:Tableau
Communication as a Service
  • テレビ会議やチャットなどコミュニケーションに関するサービス
    • 例:Slack、Zoom

業界特化のサービス化

個々の業界において、特徴的なデバイスを通して提供されるサービスもあります。

Mobility as a Service
  • モビリティサービスの予約、決済ができるサービス
    • 例:Whim、Uber、Lyft
Retail as a Service
  • 小売のサービス化を指し、蓄積してきた顧客データや販売データなどとテクノロジーを組み合わせて提供されるサービス
    • 例:Amazon Go

上記を見てくださった方はお気づきかもしれませんが、XaaSの定義はあるものの、その分類は確立したものがありません。どちらかというと、「XXX-Tech」等と同様にマーケティングメッセージのための造語として捉える方が適切な理解かもしれません。

XaaSのメリット

では、なぜマーケティングメッセージとして活用してまで、XaaSの普及に乗り出すのでしょうか。その理由をプロバイダー/ユーザーのそれぞれの視点からメリットを明らかにすることで、解明していきます。

プロバイダーとしてXaaSとして提供するメリット

ソフトウェアを始め、XaaSの対象になっているようなものは、これまで売り切りモデルを採用し提供されてきました。現在、プロバイダーがXaaS化を推進する理由は大きく2つあります。

まず1つ目は、売上の予見可能性が高まることです。XaaSの多くはユーザの継続利用に対して、サブスクリプションモデルを採用します。そのため、毎月その月に売上をワンショットで計上するのではなく、前月からの継続利用によって売上の多くが担保されている状態を実現できます。このようなPLの構成は資本市場からの評価も相対的に高いものになりやすく、また比較的景気に左右されにくいビジネスモデルとも評価できるでしょう。

2つ目は、サービスを通してユーザーと継続的に関係構築できることにあります。サービスとして継続的に利用してもらうことを想定しているので、当然ユーザーから要望や不具合等のフィードバックを受け、改善していく必要があります。このような活動を通してサービスの風化を防ぎ、ユーザー満足度を維持し続けることができるのです。また、いきなりユーザーから利用停止の連絡をもらうのではなく、他社のシステムに切り替えられる前にケアする機会も担保しやすくなります。

ユーザーとしてのXaaSを活用するメリット

また、サービスを利用するユーザー視点でXaaSを評価すると、4つに集約されます。

1点目は、初期投資を削減しサブスクリプションベースで費用を支払えることです。XaaSを使うことで、本来であれば発生するITインフラを削減し、データセンターで使用するサーバー、ハードディスク、ネットワーク、ソフトウェア等を内製で準備する必要がなくなります。コスト制約が強いスタートアップや新規事業にとって、XaaSは強い味方になります。また、XaaSを活用することで、投資としてではなく費用として計上できることも大きなメリットになるでしょう。

2点目は、メンテナンス等の間接費が削減できることです。本来ITインフラは、初期投資に加えてメンテナンスが必要ですが、XaaSにおいてメンテナンスはサービスに包含されることが多く、ユーザーサイドで対応する必要がありません。つまり、自社のエンドユーザーの便益に直結する業務に注力できるのです。

3点目は、スケーラビリティの高さです。例えば、急に事業拡大する必要が出た場合でも、XaaSで利用するプランをアップグレードするなどしてスピーディーに対応できることも多く、組織を大きく変えることなく対応することができます。XaaSは使える機能や頻度によってプランを分けて設定していることが多く、ビジネスニーズに応じて利用するサービスの機能や頻度を調整することができるのです。

最後に、イノベーションの促進が挙げられます。XaaSは本当に多種多様です。本来内製で実現しようとすると、社内に専門家を招聘して開発を進めることになるのですが、そのようなステップを踏まなくてもXaaSを導入することで最新のテクノロジーを活用できます。XaaSを提供する企業も自分のチームの一員として稼働し、迅速なプロダクト、事業展開が可能になるのです。

まとめ

SaaSを中心に、XaaSは広く普及しはじめています。これはプロバイダー、ユーザーそれぞれにメリットがあります。プロバイダーはユーザーと継続的な関係構築を通して売上の予見可能性を高められますし、ユーザーは初期投資を最小限に抑えながら、利用した分だけ支払うことで、間接費を最小限に抑えられます。 急速に進行するXaaS化の流れは不可逆的であり、極論すればこだわりを持って自分のものとして使い続けることが想定されたもの以外はサービス化される時代がやってくるかもしれません。 このような時流において、本記事が改めて自社の製品やサービス提供のあり方を再考するきっかけになれば幸いです。

参考文献

エンタープライズプロダクトマネジメント新規事業SaaSPaaSIaaSサブスクリプションモデルプロダクトマネジメントデジタルトランスフォーメーションマルチクラウドサーバーレスビジネスモデルイノベーション

著者について

宮田 善孝(みやた よしたか)。 京都大学法学部を卒業後、Booz and company(現PwC Strategy&)、及びAccenture Strategyにて、事業戦略、マーケティング戦略、新規事業立案など幅広い経営コンサルティング業務を経験。DeNA、SmartNewsにてBtoC向けの多種多様なコンテンツビジネスをデータ分析、プロダクトマネージャの両面から従事。その後、freeeにて新規SaaSの立ち上げを行い、執行役員 VPoPを歴任。現在、Zen and Companyを創業し、代表取締役に就任。シードからエンタープライズまでプロダクトに関するアドバイザリーを提供。ALL STAR SAAS FUNDのPM Advisor、およびソニー株式会社でSenior Advisorとして主に新規事業における多種多様なプロダクトをサポート。また、日本CPO協会立ち上げから理事として参画し、その後常務執行理事に就任。米国公認会計士。『ALL for SaaS』(翔泳社)刊行。


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