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SaaSの特徴と立ち上げ方

2022-12-29

宮田 善孝 / Yoshitaka Miyata

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新型コロナウイルスの蔓延により、自宅など、どこからでも作業ができるニーズが急速に高まり、国内においてもSaaSという言葉が市民権を得ました。 少し歴史を遡ると、2000年前後からSalesforceを始めとするスタートアップがサブスクリプションによる事業の見通しの良さに目をつけ、SaaSが展開され始めました。当初はセキュリティ面やカスタマイズができないことから、SaaSはSMB向けのシステムと思われていましたが、徐々にその認識を変えるに至りました。そして、Adobeなどの大手ソフトウェア企業がパッケージソフトからSaaSへと移行していくことになったのです。 日本でも、今ではHorizontal SaaSが一通り出尽くし、Veritical SaaSも競争を極めつつあります。このような環境を鑑み、本記事ではSaaSの立ち上げについて概略していきます。

SaaSとは

SaaSの立ち上げに入る前に、SaaSの定義から確認していきます。SaaSとは、「Software as a Service」の略で、ソフトウェアの提供方法を指します。 従来ソフトウェアは、パッケージソフトとして売り切りモデルで提供されてきましたが、SaaSはクラウドを通して提供され、その利用料をサブスクリプションの形式で支払うことになります。つまり、SaaSはカスタマイズこそ制限されますが、ソフトウェアのインストールが不要で、IDとパスワードでログインすれば、どこでもインターネットを介して利用可能です。また利用料もサブスクリプションになることから初期投資を大幅に削減でき、気軽に利用することが可能になりました。 少し目線を変え、プロバイダーサイドから捉えたパッケージソフトとSaaSの違いは、クラウドを通して常に最新のソフトウェアをユーザーに提供できることです。サブスクリプションは使った分だけ請求していくことになるため、売り切りモデルより売上の認識が遅れ、資金的な体力を求められます。しかし、SaaSを評価するメトリックスの進化により、売上が後からついてくることを評価できるようになり、すでに国内でも多くのベンチャーキャピタルからリスクマネーが提供されるようになっています。

SaaSの立ち上げ

本題のSaaSの立ち上げについて見ていきましょう。まず、SaaSの立ち上げは大きく4つのフェーズ(事前調査、開発、GTM戦略、リリース準備)があります。

1. 事前調査

開発着手する前段階に対象領域における市場調査やユーザー調査などを指します。SaaSはBtoB向けに展開され、業務上利用されることが多く、まずその業務フローを詳細に知ることがプロダクト開発の初手になります。 BtoCのプロダクトに比べ、BtoB向けのSaaSは業務上利用するものであり、各種調査を通し、事前に課題やニーズを再現性高い形で把握することができます。つまり、プロダクトアウトで企画、開発を進めなくても、綿密に業務フローを理解することで、真に解くべき課題を特定し、開発要件を絞り込むことができます。 また、事前調査を経て要件定義を行うだけではなく、プロトタイプを作成し、想定ユーザーに事前に利用してもらい、フィードバックを得ることで、企画段階でプロダクトとしての完成度を高めることも可能です。

2. 開発

プロトタイプを通して最終的な要件が決まると、具体的に開発を進めていくことになります。まず、開発に関わるデザイン、開発、QAの方針を策定していきます。例えば、開発を進めていく上で、どのようにスクラムを運営していくか、そのルールの設計などが当たります。 プロトタイプで設計した機能要件の開発を進める前に取り組むべきインフラ等の非機能要件もあります。この段階で検討漏れが発生してしまうと、後々スケジュールに影響が出てくるため、しっかりと開発案件の洗い出しを行い、進めていくことが重要です。

3. GTM戦略

GTM戦略とは、「Go to market戦略」の略であり、開発できたプロダクトの市場投入時の戦略や戦術を指します。具体的には、いくらでどのように販売していくのか、その方針を決め、実行プランを練る過程です。 BtoCの場合、アプリを作りさえすれば、あとはApp StoreやGoogle Playなどのプラットフォームに乗せることで一定数のユーザーがダウンロードしてくれます。BtoBではそのような便利なプラットフォームは存在しないため、自ら販路を開拓していくことになります。

4. リリース準備

GTM戦略に基づき、どのようにリリースを行うのか検討していきます。例えば、いきなり正式版リリースを行うのも一案ですし、一定数のユーザーをモニターとして抱え、彼らにしっかり使ってもらい、要件の精度を限界まで上げてからリリースを行うような手法もあります。また、課金についてもリリース当初から課金することもあれば、ユーザーの初期動向、特にChurnの数や割合を確認しながら初期は無料で展開する方法もあります。 このようにリリースという一言でも、様々な捉え方がありますし、取るべき選択肢も多種多様なのです。

まとめ

コロナ禍を契機に、国内では一気にSaaSへのニーズが高まり、Horizontal SaaS、Veritical SaaSを展開するスタートアップが後を絶ちません。 事前調査、開発、GTM、リリース準備といったSaaSの立ち上げに関する知見はスタートアップを中心に蓄積され、徐々に体系化され始めています。 この体系化された手法を大手企業が取り入れることにより、大手企業における基幹事業のSaaS化が次のトレンドになる可能性を秘めています。近い将来、日本においても、AdobeのようにパッケージソフトからSaaSに大きく舵取りを行い、転換を成功させる事例が出てくることでしょう。

参考文献

SaaSエンタープライズGo-To-MarketB2Bグロース新規事業プロダクトマネジメント

著者について

宮田 善孝(みやた よしたか)。京都大学法学部を卒業後、Booz and company(現PwC Strategy&)、及びAccenture Strategyにて、事業戦略、マーケティング戦略、新規事業立案など幅広い経営コンサルティング業務を経験。DeNA、SmartNewsにてBtoC向けの多種多様なコンテンツビジネスをデータ分析、プロダクトマネージャの両面から従事。その後、freeeにて新規SaaSの立ち上げを行い、執行役員 VPoPを歴任。 現在、日本CPO協会理事、ALL STAR SAAS FUNDのPM Advisorに就任。米国公認会計士。『ALL for SaaS』(翔泳社)刊行。


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