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ローコード導入におけるオーナーシップ
2024-8-20
様々なシーンで、ローコード活用が散見されるようになってきましたが、ローコードを導入すること自体が目的になることはありません。まず社内で実現したいことを明確にすることから始めることが重要です。その上で、SaaSなどカスタマイズを要しないシステムを活用するか、ローコードやノーコードを導入するか、さらにコーディングして拡張するかを順を追って検討することが求められます。
本記事では、ローコードの導入サポートを確認した上で、ユーザーによる導入におけるアメリカと日本の違いを意識しながら解説していきます。
ローコードの導入サポート
前記事「ローコードツールのプロダクト開発」の「ローコード自体の開発における企画思想」で解説した通り、ローコードは一定の開発スキルを要求することから、プロダクトマネージャーや開発者、情報システム部門の方々などが活用することが多いです。そのため、ローコードの提供企業からのサポートはSaaSと同じくヘルプページやチャットによる対応など、基本的に同じですが、ローコードの特性である拡張性の高さから随所に違いが出てきます。
基本的なヘルプページの内容は前提となる概念の説明や背景から入り、機能の目的、機能の具体的な内容、実際の使い方などを主要画面のキャプチャや動画を織り交ぜながら解説するものが多いです。ここまではSaaSのヘルプページと特段違いはありません。
ただ、その量に差があります。なぜならローコードを導入して、実際の作業者が直接利用できるわけではなく、一定の要件に併せてプロダクトマネージャーや開発者、情報システム部門の方々が設計し、準備を整える必要があります。そのため、システムとしてSaaSよりも一段深いレイヤーの活用からサポートしていく必要があり、提供するコンテンツの量が多くなるのです。
また単にヘルプページやチャットだけではなく、実際にローコードを導入する上で必要になるため、より情報量の多い動画配信やコミュニティの運営にも積極的です。 さらにイベント等でハンズオンセッションを開催し、数日間ローコードを活用できる環境を準備し、セッションの中で一緒にローコードを通して一定のシステムを構築するようなものまであります。
導入の過程で、カスタマーサクセスが受けきれないテクニカルな課題が出てきた際、ローコード自体を企画しているプロダクトマネージャーが出向いて、サポートすることまであります。これは一般的なSaaSではあまりないことで、拡張性の高いローコードならではと言えるのではないでしょうか。プロダクトマネージャーはこのサポートを通して、当該ユースケースに対してどのような実現方法があるのか確認し、今後の開発を検討していく上でのインプットとして位置づけていくことになります。
国内におけるローコード導入
当たり前なことを行っているかもしれませんが、アメリカではローコードを導入する際、導入する企業自体にオーナーシップがあり、社内の情報システム部門の方々などが導入を推進していくことになります。社内で活用するシステムに対して内製カルチャーを持っている企業が多いのが特徴です。大掛かりなシステム導入を行う際は総合ファームではなく、戦略ファームがその方針をサポートし、実際の導入は自社で行うことが一般的なようです。
他方、日本では内製よりも外注を活用し、社内システムを構築してきた歴史があります。そのためローコードのような抽象度の高いシステムを導入するにはSIerなどのパートナービジネスと共創することが不可欠で、パートナーを無視して提案しても進みにくい企業が多いのが実情と言えるでしょう。
つまり、日本がローコードを採用する際はアクセンチュアや会計Big4のような総合ファームがコンサルティングを行い、必要に応じてSIerを巻き込み、導入する流れがあるのです。
日本でもオーナーシップを持てるのか?
アメリカと日本という大きな対比をしましたが、日本にも当然、社内システムに対してオーナーシップを持っている企業もあります。例えば、IT企業などでは創業から内製文化である企業が多く、ローコードのような新しいシステムに対してもキャッチアップが早く、必要に応じてエンジニアを中心に導入を進めている印象が強いです。このようにプロダクトマネージャーや開発者、情報システム部門を中心に社内に一定のITリテラシーが根付いている企業ではアメリカと似た状況になっていると思います。
その他の企業が、このような企業に変革していくにはローコードのような抽象度の高いシステムであっても、社内で必要性について議論できるITリテラシーと、コンサルからの提案ありきではなく自ら主導していくスタンスの情勢が不可欠だと思います。内容の難易度は高いことは否めませんが、ローコードはその抽象度の高さゆえ、サポート内容は充実していると言えます。この状況を鑑み、最低限社内で検討を進められる状態に持っていくことが初手になるでしょう。
もちろん、日本で確立したパートナーと共創していくことも1つの選択肢だと思います。すでに確立したエコシステムを無視するのではなく、コンサルやSIerからの提案を実質的に見極め、ローコードのような拡張性の高いシステムに対しても意思決定に足るキャッチアップを行うことも有用です。
まとめ
ローコードを運営している企業はそのプロダクトの抽象度の高さからSaaSよりも導入サポートの発信量や質が高いのが特徴的です。アメリカと異なり、日本ではIT企業などITに対するリテラシーの高い企業を除き、コンサルやSIerなどのパートナー企業の存在が大きく、ややユーザーサイドが受動的になりやすい構図があります。
ローコードのような拡張性の高いシステムの導入を主導していくには、商談資料やホームページ上の情報に留まらず、ヘルプページやハンズオンセッションを通して実際に導入するイメージが持てるか、課題を抱えているユースケースに対してソリューションとなりうるか肌感覚を持つことが第一歩になるでしょう。
著者について
宮田 善孝(みやた よしたか)。 京都大学法学部を卒業後、Booz and company(現PwC Strategy&)、及びAccenture Strategyにて、事業戦略、マーケティング戦略、新規事業立案など幅広い経営コンサルティング業務を経験。DeNA、SmartNewsにてBtoC向けの多種多様なコンテンツビジネスをデータ分析、プロダクトマネージャの両面から従事。その後、freeeにて新規SaaSの立ち上げを行い、執行役員 VPoPを歴任。現在、Zen and Companyを創業し、代表取締役に就任。シードからエンタープライズまでプロダクトに関するアドバイザリーを提供。ALL STAR SAAS FUNDのPM Advisor、およびソニー株式会社でSenior Advisorとして主に新規事業における多種多様なプロダクトをサポート。また、日本CPO協会立ち上げから理事として参画し、その後常務執行理事に就任。米国公認会計士。『ALL for SaaS』(翔泳社)刊行。