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事業成長に伴い変化するプロダクトリーダーの役割

2023-5-19

宮田 善孝 / Yoshitaka Miyata

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近年、プロダクトマネージャーという概念が急速に普及し始め、今ではプロダクト開発における中心的な役割の1つに挙げられるようになってきています。さらに、人工知能(AI)、機械学習(ML)やBizDev、ドメイン、ピープルマネジメントなど、プロダクトマネージャーとしてどこに強みを置くかによってその役割は細分化され、組織構築やプロダクトマネージャーのキャリアを考える上で活用されています。

プロダクトリーダーと呼ばれるCheif Product Officer(以下、CPO)やVP of Product(以下、VPoP)のような役割についても同様に定義されるようになってきました。ただ、定義や期待値に沿ってアウトプットしていたのに、入社前のイメージとギャップがあったり、思うように成果がでていなかったりする様子を見かけることはないでしょうか。

本記事では、プロダクトリーダーが活躍する母体、企業や事業のフェーズに着目し、変化するプロダクトリーダーの役割やスキル、マインドセットについて解説していきます。

会社や事業の成長

会社や事業が成長していく過程は大きく創業期や新規事業の立ち上げ期、PMF(Product-Market Fit)期、グロース期、マネタイゼーション期の4つに分解できます。

まず、創業期や新規事業の立ち上げ期ではアイデアの発掘や市場調査、プロトタイピングなどを行い、ビジネスモデルの構築し、それをプロダクトとしてどう具体化するか検討し、開発します。

次に、PMF期に入ると、ユーザーからのフィードバックを元にプロダクトやサービスを改善し、市場に受け入れられるように調整していきます。グロース期では、プロダクトやサービスの追加、改善を通して既存市場への普及、新規市場への進出などを行います。

最後に、マネタイゼーション期では事業の収益化や持続可能なビジネスモデルの確立に向けて取り組みます。このように、各フェーズに応じてプロダクトリーダーは戦略や組織の両面にアプローチし、事業の成長に向けて取り組むことになります。

プロダクトリーダーの役割

創業期や新規事業の立ち上げ期

事業領域に課題感が強いCEOとCTOで創業するケースが多く、バックグラウンドに応じてどちらかがプロダクトリーダーの役割を担うことになります。この時期から専任プロダクトマネージャーがいる場合は少なく、新規事業でも事業責任者が兼務しているのが一般的です。

この時期のプロダクトリーダーの主な役割は、ユーザー課題の精査とMVPの作り込み、開発ディレクションです。CEOかCTOが兼務しており、まだプロダクトもリリースされていないので、その役割はシンプルです。

B2CとB2Bでアプローチに違いがあるので言及しておくと、B2Cではユーザーが使い続けるものが正解と捉えられます。そのため、とにかくプロトタイプを作り、ひたすらPDCAを回し、UXの磨き込みを行うことがPMFを手繰り寄せる最善の手段です。

他方、B2Bでは業務上使うツールであることが多く、ヒアリングを通して事前にユーザーの課題やニーズを正確に把握できます。そのため、事前の調査をしっかり行うことで、最小限の開発でユーザー価値を創出し、PMFを実現することが重要になります。

PMF期

プロダクトのリリースを終え、ターゲットセグメントへのPMFを追っていく過程で、1人目の専任プロダクトマネージャーを迎えることが多いです。圧倒的存在感のCEOから一部業務を巻き取っていきます。

具体的には、B2CではWeb広告を回して数万程度のMAUを確保し、ABテストを通して、UXをひたすら磨き続けます。他方、B2Bではユーザーに足繁く通い、ひたすらフィードバックをもらい、ニーズを抽象化して、プロダクトに組み込んで行きます。

気をつけるべきポイントとして、B2Bでもビジネスに強いCEOはシニアなプロダクトマネージャーを採用しに行きがちですが、B2Bではドメインを抑えてないと、プロダクトビジョンからロードマップの策定まで担うことが困難です。採用時の期待値とパフォーマンスにギャップが出やすい理由になるので、今後採用を進められる方は改めて採用要件と期待値の確認をお勧めします。

なお、まだプロダクトとしての組織がないタイミングなので、仮にCPOと名乗っていても、やるべきことは1人目プロダクトマネージャーと同じで、PMFを手繰り寄せることに集中することになります。

グロース期

ターゲットセグメントやその周辺のセグメントに対してPMFができたら、次はグロースを進めていくことになります。

このタイミングで、プロダクトを組織化し、その組織長として明確にCPO/VPoPが立ち、プロダクト全体のビジョン、戦略、ロードマップ策定に責任を持ちつつ、それを実現するプロダクトマネジメント組織の設計、その構築を行うことになります。

組織面では、グロースを推進していく上でプロダクトマネージャーの多角化を行います。B2Bでは、サインアップ、課金動線の最適化のために、分析が強いプロダクトマネージャーを採用したり、周辺プロダクトとの連携を強化するためにBusiness Developmentに強いプロダクトマネージャーに参画してもらう傾向が強いです。また、コア機能の開発が専門化していくので、より直結する経験を持つドメインスペシャリストの参画も不可欠になります。

他方、B2CではUXと分析やAI/MLの活用に注力します。というのも、かなり広範囲なユーザーに使ってもらうことが想定されるため、プロダクトをシンプルに保つことが競争力の源泉になります。また、ユーザー動向の分析だけでなく、パーソナライズなどAI/MLの活用がKPI向上に直結することが多いため、積極的に高度なユーザー解析やAI/MLを利用した機能拡張を行います。

つまり、B2Bでは様々な専門性を持つプロダクトマネージャーを幅広く擁していく必要がありますが、B2Cでは分析、UXに特化し、高度な専門性を持ったプロダクトマネージャーを中心に組織していくことになります。

マネタイゼーション期

基幹プロダクトの収益性を高めた上で、周辺領域に対して新規プロダクトを投入したり、Fintechやプラットフォーム化など、ビジネスモデル自体の変革に挑戦し、更に確固たる収益基盤を構築していくフェーズを迎えます。

戦略という観点では単にプロダクトを良くするという域を大きく出て、質的にビジネスモデルの変革を引き寄せるプロダクトを設計することになり、一気に難易度が上がります。

にも関わらず、プロダクトマネジメント組織の多様化、深化が進むため、組織マネジメントの比重がどんどん上がり、採用や異動、育成について半分以上のマインドシェアを持っていかれることになります。つまり、採用、異動を積極的に行い、多様なプロダクトマネジメントチームのポテンシャルを引き出すのがメインになっていくのです。

このフェーズになっても、B2Cでは自分がユーザーであり続けられることから、プロダクトビジョンや戦略についてオーナーシップを維持しやすいです。プロダクトが普及することで、採用候補者がプロダクトを使ってくれる可能性が高まり、自然と認知が広がり、採用サイクルが進化していきます。

他方、B2Bの場合、プロダクトが業務上使うものになるため、このフェーズになると、全体像を俯瞰し続けるのは難しく権限移譲の必要性が相対的に早く訪れます。そして、B2Cとは異なり、プロダクトが普及しても、採用候補者への認知拡大にはつながりにくく、採用効率が上げるには、別途採用広報に力を入れる必要があります。

変化に応じて求められるプロダクトリーダーの進化

フェーズごとの変化

ここまでの議論は上記のようにまとめられます。前半はドメイン、新規事業立ち上げに関するスキルがインパクトを生み、後半は多様なプロダクトマネージャーとしての経験やピープルマネジメントが重要になっていきます。つまり、プロダクトリーダーとして求められることが大きく変容していきます。

順当な会社であれば、創業期からマネタイゼーション期まで5−7年で駆け抜けることを考えると、創業期からプロダクトマネージャーとして入った場合、プロダクトリーダーは短期間でプロダクトと組織に向き合い、自分を変え続けなければならないのです。

創業者の視点に立つと、初期に1人目プロダクトマネージャーをCPOとして迎える場合は、この変容に耐えられる方なのかというポイントも採用条件の中で、かなり重要な要素の1つです。逆にマネタイゼーション期の企業でCPOを担当していた方を創業期のプロダクトマネージャーとして迎える場合、PMFを手繰り寄せるために自分で手を動かし、もう一度泥臭く進められるかが採用時の最重要事項になります。

B2C/B2B間の変化

B2CとB2Bの比較の観点では、前半は企画の力点をABテストに置くか、事前調査に置くかが大きく変わってきます。つまり、B2Cではプロトタイプやプロダクトを通してどんどんユーザーに試してもらい、ABテストを元にPDCAを回してPMFを狙います。他方、B2Bでは事前にヒアリングをできるだけ行い、開発前段階にできるだけ企画の精度を上げて、開発するものを最小限にすることがプロダクトマネージャーとしての腕の見せどころになります。

後半は、プロダクトマネジメント組織の多様性と採用候補者の認知に大きな違いが出ます。

B2Cはプロダクトがシンプルで比較的容易に全体感を維持でき、プロダクトビジョンや戦略のオーナーシップを持ち続けやすいです。また、プロダクトの認知が広がることで、採用候補者への認知が拡大します。

他方、B2Bでは業務上使うプロダクトのため、グロース、収益化していく上で、取れる打ち手の専門性が高くなり、多様なプロダクトマネジメント組織を構築しないといけません。しかも、別途採用広報を地道にやっていかないと、延々とスカウトを打ち続けることになります。

例えば、B2Cでマネタイゼーション期のCPOがB2BのCPOに転じた場合、これまで磨いてきたUXや分析スキルは相対的に重要性が低くなる中で、今まで面したことがないプロダクトマネージャーの専門性と向き合い、パフォーマンスを引き出すことが求められます。

また、採用広報の重要性が高まるので、やったことがないイベントやカンファレンスでの登壇や記事配信が求められます。逆にB2BでCPOをやっていた方がB2Cに行くと、いきなり高度なUX、分析に対してレビューすることが求められます。過去にB2Cでプロダクトマネージャー経験がなければ、非常に難易度が高いキャリアチェンジになるでしょう。

まとめ

PMの普及に伴い、CPOやVPoPというロールも市民権を得つつあります。ただ、一言にCPOやVPoPなどのプロダクトリーダーと言っても、その役割は企業や事業のフェーズ、B2C/B2Bという領域によって大きく変容して行きます。

自分自身が変化に併せて成長していけるのか、最終的にどのようなPM、プロダクトリーダーになりたいのかなど、PMのキャリアプランの設計を行う際に参考になれば嬉しいです。また、採用する立場の方はプロダクトリーダーの採用やアサインを考えるときに、一助になれば幸いです。

SaaSプロダクトマネジメントB2BB2C

著者について

宮田 善孝(みやた よしたか)。京都大学法学部を卒業後、Booz and company(現PwC Strategy&)、及びAccenture Strategyにて、事業戦略、マーケティング戦略、新規事業立案など幅広い経営コンサルティング業務を経験。DeNA、SmartNewsにてBtoC向けの多種多様なコンテンツビジネスをデータ分析、プロダクトマネージャの両面から従事。その後、freeeにて新規SaaSの立ち上げを行い、執行役員 VPoPを歴任。 現在、日本CPO協会理事、ALL STAR SAAS FUNDのPM Advisorに就任。米国公認会計士。『ALL for SaaS』(翔泳社)刊行。


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