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プロダクトを進化させる環境:ハード面

2023-5-1

宮田 善孝 / Yoshitaka Miyata

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前回の記事では、ソフト面を中心に、目的目標の共有やユーザーファースト、アジリティについてその重要性を説きました。本記事では、ソフト面を支えるツールなど、ハード面について紹介していきます。

働く環境のハード面

プロダクトを進化させていくには、プロダクトマネージャーやUXデザイナー、エンジニアがそれぞれを独立して働くのではなく、協働することが不可欠です。

この協働を支えていく上で、ソフト面で重要なポイントをおさらいすると、全社的なミッション、ビジョン、バリューやプロダクトビジョン、OKRの導入により目的目標からしっかり共有して一緒に追い求めて行ける環境を作りあげていくことが第一歩になります。また、プロダクトはユーザーに使ってもらい、初めて価値が創出されます。そのため、ユーザーに向き合い、課題の把握やユーザー価値に対して仮説検証をしっかり回し、企画を練り上げなければなりません。さらに、企画を実現していく上で、変化が激しい昨今において、高いアジリティが求められます。

ハード面では、これらソフト面を支えるツール群を組織運営上最低限必要なものと、プロダクト開発において特有なものと分けて紹介していきます。

最低限必要なツール

コロナウイルスが蔓延し、長期間リモートワークが前提となったことにより急速にドキュメントやコミュニケーションなどを中心に各種ツールの導入が推進されました。

まず、Zoom、Google Meet、Microsoft Teamsなどのコミュニケーションツールが挙げられます。コロナ禍をきっかけに特に普及したツールであり、社内のミーティングだけでなく、商談など社外とのミーティングでも多用されています。勉強会など一対多の形式の場での活用など、その用途は多種多様です。

次に、SlackやChatworkなどのチャットツールです。これらは社内向けのツールとして最初発展してきたものです。Slackを例に上げ、昨今の用途拡大を紹介すると、社外の方々ともチャンネルを共有しコミュニケーションができたり、目的に応じてワークスペースを準備することで社内外の方々と場を共有でき、情報交換ができるようになっています。

また、Slackはエンジニアが開発を進める上で活用するシステムと柔軟に連携できるようになっており、プロダクト開発の場でも不可欠のものになっています。

3点目はWorkplaceやQiitaなどの情報共有ツールです。ミーティングやチャット上で議論した内容をまとめ、広く共有するために使われます。例えば、ミーティングには参加しなかった同じ部署のメンバーに周知したり、全社的な連絡事項の展開にも活用されます。

最後に、Google DocsやSpreadsheetやNotionなどのドキュメントツールです。ドキュメンテーションタスクの代表例である文書作成や表計算、プレゼンテーション資料作成など、全て今ではオンラインで完結できるようになっています。

プロダクト開発特有のツール

プロダクト開発に特有なツールについてはプロダクト開発の進め方を4つに分けて、紹介していきます。順に挙げていくと、ニーズの集積、企画に関する議論や整理、企画の優先順位付け、効果検証です。

1.ニーズの集積

まず1点目のニーズの集積では、既存ユーザーから頂いた要望や不具合を集積し、バックログの整理を行います。ここでは主にJiraやGitHubというツールが活用されます。

Jiraは明確にバックログの管理を主な用途とします。他方GitHubは従来コード管理ツールとして認知されていますが、昨今Issuesという課題管理機能によりユーザーからのフィードバックを管理し、その後対応や開発を紐付け、一元管理しているという事例も出てきています。

2.企画に関する議論や整理

2点目は企画に関する議論や整理です。ここではニーズを踏まえてプロダクトの企画をしていく段階で、基本的には前項で紹介したようなドキュメントツールを活用し、議論を可視化していくケースが多いです。まだ議論が曖昧で抽象度が高い段階では、ドキュメントツールではなく、より自由度の高いホワイトボードアプリ(MiroやFigJamなど)を活用することが多いです。

また、プロダクトマネージャー、UXデザイナー、エンジニアは企画段階においてUIUXを起点に議論することが多いです。というのも、ドキュメントをベースにするよりもモックや画面イメージで伝えたほうがニュアンスも含めて正確に伝えることができるからです。この用途ではFigmaが一般的になりつつあります。

2021年9月に発足したデジタル庁でも一貫したデザインや操作性でウェブサイトやアプリを提供するためデザインシステムを構築しており、その内容をFigmaを活用し、公開しています。

3.企画の優先順位付けやスプリント計画

3点目は企画の優先順位付けやスプリント計画です。企画ができたら、次はどの企画から進めるのか、計画に落としていく必要があります。この場面では、1点目で紹介したJiraやTrelloを活用することが多いです。

最終的に開発が終わりリリースできたタイミングで、仕様をドキュメントにまとめ、Confluenceなどの文書管理ツールに集約しておくことが一般的です。この集約を怠ると、ドキュメントツール上で検索をかけるか、ドキュメントが見つからない場合、直接コードを見て仕様を確認することになってしまうので、注意が必要です。

4.効果検証

4点目は効果検証です。ここでは開発した機能をリリースし、その効果を検証していくフェーズになります。ここではユーザーがリリースした機能を活用してくれているのか、そして、その利用が収益に紐付いているのか確認していきます。

手法として、ユーザーの行動ログを集計、分析し、検証していくものと、直接ユーザーにヒアリングするものが挙げられます。特に前者について分析を行う上で、Tableau、Big Queryのような分析ツールが活用されることが多いです。

最後に意外と盲点なのがデバイスです。エンジニアは開発環境が整っているMacを選択する傾向が強いです。そのため、例えばプロダクトマネージャーがWindowsを使っている場合、同じ環境でアプリやツールが使えない、もしくは使いにくいケースが出てきてしまいます。

私自身の例になるのですが、当時Windowsを利用しており、エンジニアと同じ分析環境を準備する必要が出たところ、Windowsで環境設定を行うよりもMac bookを持ってもらった方が早いということで、追加で貸与してもらうことがありました。このようなケースが多かれ少なかれ出てきてしまうので、強いこだわりが無ければ最初からデバイスを揃えてしまうのが良いでしょう。

導入の順序

スタートアップなど比較的若い企業において、プロダクト開発環境を整備していく場合、上述の各種ツールを使う傾向が強いです。他方、大手企業においてはセキュリティなどの観点から徐々に検討を進め、浸透させていく必要があります。

コロナ禍によりコミュニケーションやチャット、情報共有ツールは比較的問題なく、利用されているケースが多いです。ただし、ドキュメントツールについてはセキュリティの観点から精査され、見送ることも少なくありません。

このような場合、プロダクト開発の起点とも言えるUIUXを設計する際活用することが多いFigmaを中心に捉えてみるとよいかもしれません。Figmaを利用して設計されたUIUXは言葉で語るよりも饒舌に企画内容をニュアンスも含めて感性に直接訴えかけます。そのため、導入価値を感じやすく、代替手段も少ないことが直感的に必要性を説明することができます。

UIUXのクラウド化を起点に、ニーズの集積(JiraやGitHub)、企画の優先順位付けやスプリント計画(JiraやTrello、Confluence)にも各種ツールの導入を広げていき、同時にドキュメントツールのクラウド化を再検討するのが良いのではないでしょうか。

まとめ

プロダクト開発を進める環境として各種ツールの導入はスタートアップに限らず、大手企業に置いても確実に浸透してきています。近い将来、上記で列挙したものは非常に基本的なツールと認識されるようになり、個々のフェーズに対してツールが1つでも入っていないと、違和感を持たれるようになってくることでしょう。 UIUXのような導入価値を実感しやすいツールから検討を進めて行くなど、様々な観点で試行錯誤し、プロダクト開発に最適な環境を整備していきましょう。

参考文献

エンタープライズSaaSプロダクトマネジメント新規事業FigmaUXデザインUIデザインユーザーリサーチビデオ会議コラボレーションツールプロジェクト管理ツールGitHub

著者について

宮田 善孝(みやた よしたか)。 京都大学法学部を卒業後、Booz and company(現PwC Strategy&)、及びAccenture Strategyにて、事業戦略、マーケティング戦略、新規事業立案など幅広い経営コンサルティング業務を経験。DeNA、SmartNewsにてBtoC向けの多種多様なコンテンツビジネスをデータ分析、プロダクトマネージャの両面から従事。その後、freeeにて新規SaaSの立ち上げを行い、執行役員 VPoPを歴任。現在、Zen and Companyを創業し、代表取締役に就任。シードからエンタープライズまでプロダクトに関するアドバイザリーを提供。ALL STAR SAAS FUNDのPM Advisor、およびソニー株式会社でSenior Advisorとして主に新規事業における多種多様なプロダクトをサポート。また、日本CPO協会立ち上げから理事として参画し、その後常務執行理事に就任。米国公認会計士。『ALL for SaaS』(翔泳社)刊行。


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