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プロダクトを進化させる環境:ソフト面

2023-4-6

宮田 善孝 / Yoshitaka Miyata

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事業の根幹をなすプロダクト、その運営を推進するプロダクト開発人材は、どのような環境を求めているのでしょうか。『マッキンゼー 新規事業成功の原則 Leap for growth』 には、McKinseyが「とある大企業の新規事業のためにCTO人材のヘッドハントを支援したときに、その企業本体に入社するのが前提なら興味がないと、面接前に断られてしまうケースが、実に半数以上を占めた」とあります。

そして、「そうした人材にとって、伝統ある企業に入って役員や部長等の肩書で活動するよりも、新会社として切り出され、独立した事業体のマネジメントの一員として腕を振るう環境の方が魅力的に映る」、つまりCTOのようなプロダクトを推進していく人材がキャリアを考える上で、報酬や肩書よりも働く環境が非常に重要な判断要素になっています。

プロダクトを中心とした事業を推進していく上で、働く環境も大きく変化し続けています。大手企業ではセキュリティ面を考慮し、なかなか導入が進まなかった各種ツールも、コロナ禍を期に導入できたものも多いのではないでしょうか。また、変化が激しいIT業界を渡り歩くために、社内の一体感を出すためにミッション、ビジョン、バリューの重要性を説き、発信し続けている企業もあります。本記事では、プロダクトの進化を支える土台と言える働く環境について、ソフト面、ハード面に分けて、前者について紹介していきます。

働く環境のソフト面

プロダクトを進化させていくには、プロダクトマネージャやUXデザイナー、エンジニアがそれぞれを独立して働くのではなく、協働することが不可欠です。ただ職能が異なるので、役割を超えて協働しあえる環境が重要です。

1.目的目標の共有

まず、目的目標の共有という観点から全社視点で、ミッション、ビジョン、バリューの共有を行います。ミッションとは企業の社会的使命や存在意義を指し示し、ビジョンとは組織や社会の将来の姿を意味します。ビジョンの方がより具体的で企業として何を実現していくのかを言語化したものになります。

最後に、バリューは企業という組織を構成するに当たって、共有すべき価値観や行動指針を指します。これらを言語化し、共有することで、役割は違えど、アライメントを担保し、プロダクトの進化を一緒に協働していく基盤になるのです。

次に、プロダクト開発の視点から全社的なミッション、ビジョン、バリューを具体化したプロダクトビジョンがあります。これは、企業全体のミッションに即した形で、プロダクトを通して対象となる業務や市場に対し、どのような価値を提供し、何を実現するのかを簡潔にまとめたものです。プロダクトビジョンを共有することで、さらに強固な基盤になります。

さらに、基盤としてだけではなく、具体的に年間や四半期などの目的目標として掲げるものとしてOKRのフレームワークを導入することにも積極的です。全社だけでなく、プロダクト開発の場ではプロダクトごとに設定することが多く、職能を超えた目標を共有することに一役買っています。

2.ユーザーファースト

プロバイダーの都合で提供したいプロダクトを起点にするのではなく、ユーザが抱える課題を把握し、理想の状態を考え抜き、プロダクトに落とし込んで行くことが重要です。

ユーザーヒアリングや競合調査などを通して、市場やユーザーの課題を特定し、きちんと仮設検証が終わってなければ、企画しても開発を進められません。エンジニアとしても仮説検証が終わっていないものを開発してしまい、後から方針変更を言い渡されても、またゼロから開発した方が早いことすらありえます。そのため、企画、開発ともに仮説検証プロセスが整備され、お互いに牽制し、いいプロダクトを作る土壌があることが非常に重要なのです。

3.アジャイル

出来得る限り、事前に仮設検証プロセスを回すのですが、変化が激しいため、事前にすべてを把握し切ることはできません。正確にユーザーニーズを汲み取り続け、スピーディに企画開発を回していくアジリティの高さが求められるのです。 一般的にはスクラムを導入し、企画の精査、工数見積、優先順位付け、開発方針の策定、開発、QA、効果検証までを一連の流れとして、プロダクトマネージャやUXデザイナー、エンジニアが協働できるフレームワークとして導入されていることが多いです。

なお、アジャイル開発については大手企業が導入するときのポイントを大手企業におけるアジャイル開発と導入時のポイントで詳述しています。導入を検討する際は、ぜひ併せてご確認下さい。

まとめ

プロダクトの進化にはプロダクトマネージャやUXデザイナー、エンジニアといった役割の異なる方々の協働が不可欠です。この協働を支えていく上で、全社的なミッション、ビジョン、バリューやプロダクトビジョン、OKRの導入により目的目標からしっかり共有して一緒に追い求めて行ける環境を作りあげていくことが第一歩になります。

また、プロダクトはユーザーに使ってもらい、初めて価値を創造できます。そのため、ユーザーに向き合い、課題の把握やユーザー価値に対して仮説検証をしっかり回しきって、企画を練り上げなければなりません。さらに、企画を実現していく上で、変化が激しい昨今において、高いアジリティが求められます。これら3点が揃って初めて、プロダクト開発を円滑に進められる土壌となるのです。

参考文献

エンタープライズSaaSプロダクトマネジメント新規事業

著者について

宮田 善孝(みやた よしたか)。京都大学法学部を卒業後、Booz and company(現PwC Strategy&)、及びAccenture Strategyにて、事業戦略、マーケティング戦略、新規事業立案など幅広い経営コンサルティング業務を経験。DeNA、SmartNewsにてBtoC向けの多種多様なコンテンツビジネスをデータ分析、プロダクトマネージャの両面から従事。その後、freeeにて新規SaaSの立ち上げを行い、執行役員 VPoPを歴任。 現在、日本CPO協会理事、ALL STAR SAAS FUNDのPM Advisorに就任。米国公認会計士。『ALL for SaaS』(翔泳社)刊行。


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