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ARPA最大化の鍵、Pricing Team

2024-4-3

宮田 善孝 / Yoshitaka Miyata

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昨今の状況を加味し、ARPA(Average Revenue Per Account)の最適化に取り組み、Pricingの見直しをし始めている企業は多いのではないでしょうか。ARRを上げていく上で、導入社数を上げていくアプローチと並んで重要なのが単価です。ARPAを上げるには基本的に以下3つのアプローチしかありません。

  • エンタープライズへのアプローチを増やす
  • プロダクト数を増やしたり、アドオン機能の展開などにより、アップセルを訴求する
  • Pricing自体を見直す

そこで、今回はARPAを上げる上で、最も直接的なアプローチであるPricingの見直しなどを推進するPricing Teamに着目し、どのように企業全体の収益を最適化していくのか確認していきます。

Pricing Teamを導入する背景

そもそもなぜPricing Teamの導入を検討しなければならないかと言うと、2点ほど大きな理由があります。

1点目は部門横断的な様々なデータを活用し、Pricingの設計を行う必要があるからです。Pricingを決めていく上で、市場関連のデータはもちろんのこと、MarketingからSales、CSM(Customer Success Management)を推進していく上でCRM(Customer Relationship Management)に蓄積されたデータも活用します。さらにSaaSの場合、クラウドを通して提供することによりユーザーの利用ログを取得できます。どのような機能がどの程度使われているのかを把握することで、ユーザーペルソナを定量的に定義し、個々のペルソナに合わせたプランを設定していくことになります。

2つ目はSaaSビジネスの複雑性が挙げられます。これまでソフトウェアはパッケージとして販売されてきましたが、SaaSでは様々な課金体系が存在し、しかも毎月、毎年など定期的に請求が発生します。Flat Feeのように毎月定額のものからSaaSの利用量に応じて請求額が決まる従量課金などもあり、請求業務を遅滞なく適格に行うことは難易度が高く、専任者が必要です。

Pricing Teamの構成

Pricing Teamは大きく3つの役割に分解できます。順を追って確認していきましょう。

1.Pricing Strategy
まず、Pricing Strategyです。これはPricing Teamを導入する背景の1点目である部門横断的なデータを活用し、ユーザーペルソナを定義し、どの機能を使えるようにするのか決め、最終的に課金ロジックと金額を決めていくことになります。また、SaaSは永遠のβ版と言われるように、常に機能拡充されます。拡充された機能がどのプランで使えるようにするのかなどの判断も行うことになります。

これらを進めていく上で、MarketingからSales、CSMはもちろんのこと、PM(Product Manager)やPMM(Product Marketing Manager)など、ほぼ全社が関係者になるプロジェクトを進めていくことになります。値付けは経営と言われるように経営陣との連携も不可欠であり、非常に重要な役割と言えるでしょう。

様々なデータやユーザーからのフィードバックを元に、ユーザーペルソナの定義からプランの策定を行い、全社にアナウンスし、新しいPricingの導入を行うことになります。具体的には、データ分析と複雑なプロジェクトの推進能力が求められます。そのため、戦略コンサルティングファーム出身者などが適性に近いです。

2.Pricing Ops
次に取り上げるPricing OpsはPricing Strategyが決まったら、それを実現しなければなりません。そこで、SaaS向けの販売管理システムの導入やCPQ(Configure, Price and Quote)を実装し、主にBisiness-sideの運用に乗せていくことになります。ユーザーごとに契約したプランを正しく設定し、請求まで回す必要があります。会計システムと連携し、入金まで確認する必要があります。これ以外にも、決済手段の拡充など、課金基盤に関する企画、開発推進なども役割に含まれます。エンタープライズ向けのSaaSであれば、ユーザー数もそれほど多くならず、簡易なシステムで問題ないケースもありますが、SMB向けのSaaSでユーザー数が非常に多い場合は、請求まで自動化する必要性が高く、高度なPricing Opsが求められます。Pricing OpsはSaaSの販売管理フローの構築を行うため、かなり複雑なオペレーションの確立スキルが求めれます。エンタープライズ向けのERPなど、かなり要件が多岐にわたり、関係各所との調整を進められる必要があります。

3. Deal Desk
最後に紹介するDeal Deskは営業活動を行う上で、通常の値引きだけでは締結までこぎつける事ができない複雑な案件を成就させる最後の砦的な役割を担います。特にエンタープライズ向けの販売で、複数の製品やサービス、カスタマイズ、または長い販売サイクルを伴う複雑で大型な取引を扱います。Salesから連携を受け、営業に必要な顧客情報(売上規模、新規or既存、ネームバリュー、タイミング)を元に、Deal Desk内のガイダンスに沿って提案していきます。Deal Deskはエンタープライズ営業の中でも、最も難しい案件の調整を行います。そのため、過去の取引の調整を把握し、これまでの取引を踏まえた上で細かい間隙を縫いつつ、筋の通った提案作成能力が求められます。

Pricing Teamの所属組織

上記のPricing Teamは非常に多岐の部署と連携することが多く、そのあり方は会社によって様々です。PricingをSalesの1要素と捉える企業では、営業企画的な立ち位置として、Sales組織内に置くことになります。他にもBusiness Side全体への影響を考え、CRO(Cheif Revenue Officer)直下に置くこともあります。少し思考を変え、中長期的なPricing Strategyの妥当性を考え、PMやPMMに近いProduct Sideに配置されることもありますし、経理やファイナンスとの連関を重視し、経営管理に置かれることもあります。企業のフェーズやPricingを安定的に運用したいのか、積極的にPricing Strategyを変更していきたいのかなど、Pricingにより実現したいことによって、Pricing Teamのあり方は変わります。

まとめ

昨今のようなビジネス環境においてARPAの向上は急務です。エンタープライズへの導入やプロダクトの追加はもちろん有用な手段ですが、即効性がありません。そこでPricingやビジネスサイドのプロセスを全体的に俯瞰し最適化することは今からでもできますし、非常にROIが高いファンクションの1つと言えるでしょう。

参考文献

SaaSプロダクトマネジメントGo-To-Marketエンタープライズ価格最適化ARPACRMカスタマーサクセスマネージャーARRMRRChurn Rate

著者について

宮田 善孝(みやた よしたか)。 京都大学法学部を卒業後、Booz and company(現PwC Strategy&)、及びAccenture Strategyにて、事業戦略、マーケティング戦略、新規事業立案など幅広い経営コンサルティング業務を経験。DeNA、SmartNewsにてBtoC向けの多種多様なコンテンツビジネスをデータ分析、プロダクトマネージャの両面から従事。その後、freeeにて新規SaaSの立ち上げを行い、執行役員 VPoPを歴任。現在、Zen and Companyを創業し、代表取締役に就任。シードからエンタープライズまでプロダクトに関するアドバイザリーを提供。ALL STAR SAAS FUNDのPM Advisor、およびソニー株式会社でSenior Advisorとして主に新規事業における多種多様なプロダクトをサポート。また、日本CPO協会立ち上げから理事として参画し、その後常務執行理事に就任。米国公認会計士。『ALL for SaaS』(翔泳社)刊行。


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