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PMFを勝ち取るステップ

2024-1-4

宮田 善孝 / Yoshitaka Miyata

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ECやSNS、ソーシャルゲームが隆盛を極めた後、2010年代を中心に日本でもSaaSというビジネスモデルが表出しました。Horizontal SaaS、Veritical SaaSと順を追って、新しいプレイヤーが続々と出てきました。ローンチを経たプロダクトの最初の登竜門として、PMF(Product Market Fit)が最初のマイルストーンになります。本記事では、改めてPMFについて可能な限り深掘りを行い、探求したいと思います。

PMFの周辺概念

PMFの深掘りを行う前に、周辺概念を整理しようと思います。Founder Problem Fit、Problem solution fit、Product Market fitという3つの概念があります。

1.Founder Problem Fit

Founder Problem Fitとは、創業者や新規事業の旗振り役自身が解決したい課題に深く動機づけられていることを指します。事業を立ち上げようとすると、様々な困難が立ちはだかります。それらに打ち勝つには、創業者や新規事業の立ち上げの責任者が取り組んでいる課題や立ち上げようとしている事業に深い動機づけが必要になります。この動機づけが全ての原動力になり、様々なハードルを突破していきます。

この概念の提唱者であるRoelof Botha氏はFPFを確認する上で、創業者に以下のような質問を行うようです。1

「どうやってこのアイデアを思いついたのか?と聞くのが好きなんだ。例えば、何かがピンときて、この問題に取り組むために何かしたいと思った瞬間はどんな瞬間だった?また、現在の解決策を評価して、不満に思ったことや十分ではないと思ったことは何か?
代替案を評価した上で、魅力的な唯一無二のバリュープロポジションは何か?そして、何かを作ると決めたとき、なぜあなたが作ろうとしているものが成功し、実際のビジネスになる可能性があるほど際立ったものだと思うのか?」

Founderとあるように創業者の方はほとんどの方が持っているように思いますが、社内で新規事業推進をされているイントレプレナーの方は一度自問してもいいかもしれません。

2.Problem Solution Fit

Problem Solution Fitとは、ユーザーが特定の業務上なんらかの課題を持っていることを把握できており、その課題を解消するソリューションを企画できている状態を指します。このタイミングで利用し始めるユーザーは非常に課題意識が強く、プロダクトだけでなく、自らの想像力も働かせ、プロダクトの足りない部分を補完してくれます。まだユーザーがソリューションを購入する理由や確証はない状態ですが、初期ユーザーの想像力に掻き立てられ、MVP(Minimum Viable Product)を定義していくフェーズになります。

3.Product Market Fit(PMF)

プロダクトがユーザー課題を解決し、実際にユーザーが望む価値を創出している確証を得ることを指します。つまり、販売したいプロダクトと買いたいターゲットセグメントが明確で、それをつなぐ訴求メッセージが確立している状態のことを指します。最初の検証から、爆発的にプロダクトが販売できることは少なく、何度も商談履歴を見直し、セグメンテーションを変えたり、様々な角度から評価をし直し続けることで、PMFをたぐり寄せていくことになります。

この後は、Growth期を迎え、リソースを拡充し、ターゲットセグメントへのアプローチを強めて行くことになります。Horizontal SaaSでは周辺セグメントにもターゲットを広げ、少しずつPMFしているか確認しながら、PMFした業界を増やしていくことになります。Horizontal SaaSだけでなく、Vertical SaaSでもより規模の大きい企業への提案を強化していきます。というのも、リリース当初はまだ業務要件が少ないSMBを主たるマーケットとして捉え、一定PMFしたら、少しずつ大きな規模の企業の比率を上げていく傾向が強いです。

また、上記3つの定義を確認したところ、Founder Problem Fitだけがプロアクティブに自ら作り出すものであり、他の2つはPMFを含めリアクティブに検証していく作業になります。つまり、持てと言われて、最も持つのが難しいのが、Founder Problem Fitになります。

PMFを勝ち取るためのアプローチ

Problem Solution fitのタイミングとは異なり、PMFでは、実際のプロダクトがローンチされており、ユーザーフィードバックの解像度が一気に上がります。これまでα版やβ版を利用していたユーザーからすると、既存のシステムやExcelなどからデータ移行を行い、正式版に業務フローを構築していくことになります。ここで起点になるのは、バリュー・プロポジションです。これはプロダクトがユーザーに提供する差別化要素やユーザー価値を明確に示したものになります。

  • ターゲット市場の特定
  • ターゲットセグメントにおける課題やニーズの所在
  • プロダクトを通して行われる具体的なユーザー価値提供
  • プロダクトを競合と比較したときに、独自性と差別化

これは、実際の商談や導入支援時のユーザーからのフィードバックを元に、定期的に棚卸しし、追記修正を経て、強度が増していくような感覚です。

PMFの注意点

漠然とPMFしたかどうかを議論しても仕方ありません。バリュー・プロポジションに応じて、個々の仮説が実現しているか確認していくことになります。

PMFの定義を演繹的に議論しても学びは薄く、どのようなターゲットセグメントがどの機能についてPMFしているのかなど、ターゲットセグメントとプロダクトについて分析的に行うべきでしょう。というのも、PMFの対象をプロダクト全体にしてしまうと、リリースしてから2-3年も経つと、様々な機能が追加され、ユーザーストーリーを実現できる状態になっています。このような状況下において、プロダクト全体を対象にした議論は曖昧なものになってしまいます。そこで、 ユーザーストーリーをユースケースごとに分けて、その成否を問う必要が出てくるのです。

また、ユーザーサイドも同様で、検証のためのリード獲得が中心だが、商談が一定数を超えると、当初狙っていなかったリードも来てしまい、エッジケースが生まれることもあります。特徴的な1社を例に上げて、あの企業が入っているという事実だけで、他の企業にも販売できそうと展開することはかなり論理的な飛躍をはらんでいます。

もちろん、n=1をできるだけ深掘り、なぜそのユーザーセグメントなのに、イレギュラー的に使ってもらえているのかを深掘りすることは有用です。このポイントを深く読み解くことで仮説が生まれるし、場合によってそのユーザセグメントを攻略する糸口になるかもしれません。ただし、特徴的なユーザセグメントの企業が1社だけ使ってくれたという事実だけを過大評価してはいけません。

まとめ

PMFの他に、Problem Solution Fitはよく耳する一方、Founder Problem Fitしているかどうかはあまり議論されていませんが、非常に重要な概念ですので振り返りの機会に繋がれば幸いです。

PMFについて議論する際、PMFの定義や、PMFしているかどうか?という状況証拠だけを探し、次のアクションが見えない議論が多いように思います。本質は、プロダクトがマーケットにフィットしているかどうかであり、プロダクト全体や、マーケットが多岐にわたるのであれば、分析的に評価していくべきでしょう。どのユースケースに置いて、どの機能群がしっかり使ってもらえているのかこそ、議論の焦点にすべきです。

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著者について

宮田 善孝(みやた よしたか)。 京都大学法学部を卒業後、Booz and company(現PwC Strategy&)、及びAccenture Strategyにて、事業戦略、マーケティング戦略、新規事業立案など幅広い経営コンサルティング業務を経験。DeNA、SmartNewsにてBtoC向けの多種多様なコンテンツビジネスをデータ分析、プロダクトマネージャの両面から従事。その後、freeeにて新規SaaSの立ち上げを行い、執行役員 VPoPを歴任。現在、Zen and Companyを創業し、代表取締役に就任。シードからエンタープライズまでプロダクトに関するアドバイザリーを提供。ALL STAR SAAS FUNDのPM Advisor、およびソニー株式会社でSenior Advisorとして主に新規事業における多種多様なプロダクトをサポート。また、日本CPO協会立ち上げから理事として参画し、その後常務執行理事に就任。米国公認会計士。『ALL for SaaS』(翔泳社)刊行。


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