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ユーザー価値原論

2023-9-12

宮田 善孝 / Yoshitaka Miyata

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ユーザーファーストなプロダクト開発という標語は、プロダクトに関わる仕事していれば、一度は聞いたことがあるものだと思います。

しかし、ユーザーファーストを空気を吸うように、実現できている組織は多くはありません。プロダクトを企画する際に、常に思い起こされ、ユーザー課題を洗い出し、PRDを作成し、最終的にユーザーに価値あるものになっているか確認できるようになるには、高いハードルがあります。

これには、何個か理由が挙げられます。例えば、ユーザー課題さえ解ければ、プロダクトとして成立するのではなく、社内のアセットや強みを活かさなければ、なぜ会社をあげて取り組むものなのか不明瞭になってしまいます。逆に何らかのアセットや強みが活かされていないと、差別化に繋がりません。その結果、アセットや強みを起点に考え始めてしまい、ユーザー課題が解けているのか、その検証が後回しになってしまうのです。

他にも、プロダクトとしての差別化以外にも、事業として成立しなければならず、先に収益性に目が行ってしまうことも挙げられます。組織的な課題として、PMFを実現した組織ではチームの一体感は薄れ、プロダクトとビジネスが別組織として運営され始めます。そのため、ビジネスサイドが受けたユーザーからのフィードバックをダイレクトにプロダクトに反映されるプロセスが構築できていないことも散見されます。

仮にプロセスが構築できていたとしても、プロダクトとビジネスでは目標に掲げているものがプロダクトを通したビジョンの実現とユーザー価値の実現と売上目標の達成とで異なります。理論的に中長期的には目標は一致するのですが、目標のリードタイムが大きく異なり、すり合わせるには困難が伴います。

このようにユーザーファーストと一言にその重要性を説いても、実際構造的な課題が存在し、実現することは簡単ではないのです。

ユーザー課題の発見から価値創出までのプロセス

もう少しユーザー価値というものに焦点を当てて、実現までのプロセスの構造化に迫っていきたいと思います。

まず、ユーザー課題とはユーザーの状況に応じた主観的な課題を指しており、普段ユーザーと接しているビジネスサイドにより言語化されます。そして、プロダクトマネージャーが企画を進める前段階として、取り組むテーマについて数十社分の課題を集めて、一定のユーザーセグメントに分けた時に、共通項として見られる客観性の高い課題を見出していくことになります。

次に、課題を課題で終わらせるわけではなく、客観性の高い課題に対して、プロダクトを通してユーザーに価値を提供できないか、検討を進めていくことになります。このとき、プロダクトマネージャーは個別具体的な課題を念頭に起きますが、あくまで客観性の高い課題に対して検討を進めることになります。

これに対して、最終的なユーザー価値とは、ユーザーが個別具体的にそのプロダクトを利用した時に、実質的な価値があるかです。プロトタイプを通して直接ユーザーに利用してもらい、その価値を確認したり、ベータ版として販売し、テストマーケティングを行うことで検証を進めていくことになります。

ここまでの流れを主体(ビジネスサイド、プロダクトサイド)と対象(課題と価値)の2軸で整理し、そのプロセスをプロットすると下記のようになります。

ユーザー課題や価値と言ったときに、ユーザーの個別具体的な課題からプロダクトを通した価値の実現までには、主体と対象を変えながら、上記のプロセスを踏むことになります。どのピースが欠けても、最終的にユーザー価値を実現することには繋がらず、一つずつ丁寧にクリアしていく必要があるのです。

実務における有用性

上記プロセスに沿うことで、どこで認識に飛躍があるのか、バトンの受け渡しができておらず、最終的なユーザー価値導出のボトルネックになっているのか把握することができます。

例えば、②課題の抽象化ができていなければ、ユーザーの個別具体的な課題と客観的な課題の整合性が薄く、個別具体的な課題に対してプロダクト企画することになるので、企画されたプロダクトの汎用性はかなり低いですが、特定のユーザーには刺さりやすいものになります。

ただし、課題の抽象化が甘いので、プロダクトビジョンと照らし合わせると、対象範囲が小さく、実現に対してインパクトはなかったと判断されやすくなります。プロダクトマネージャーは抽象化した課題だけをPRDにまとめていくのではなく、ユーザーフィードバックの一覧やインタビューメモなど、ユーザーの生の声はそのまま関係者に連携すべきです。こうすることで、課題の抽象化に飛躍がないか確認しあえるようになります。

次に、③客観的な課題に対してプロダクト企画ができていない状態とは、ユーザーの課題ベースではなく、自社のアセットや強みをベースに企画が進められている場合を指します。業界に対する知見や会社としてのアセットや強みが多い企業に取られやすい企画手法ですが、課題をベースにしていないことから提供方法がプロダクトアウトであり、リリースしても、結果ユーザーがついてこなかったり、全く売れないことが多いです。

この対策として、PRDは冒頭に背景やユーザー課題を明記することにしておくと、課題ベースの企画になりやすいです。人は方法を考えるのが好きなので、課題に対する意識は落ちやすく、できるだけシンプルに、そして自然に課題から考え始められるような工夫が効果的です。

さらに、②課題の抽象化、③課題に基づいた企画ができていますが、④個別具体的なユーザーに対して価値を提供できていない場合も考えらます。これは、たしかに②、③を個別に見ると実現できているが、最終的にユーザーにプロダクトを使ってもらったときに、ユーザー個別の課題を解けておらず、価値創出に繋がっていないことに指します。

例えば、②を行う際にユーザーセグメントを広くとりすぎてしまい、論理的に筋は通っているが、抽象度の高いプロダクトになってしまい、個別具体的なユーザーが利用する際、活用できないものになってしまっているのです。

この論点は、②、③にも通じるところがあるので、まずユーザーに接しているビジネスサイドにプロトタイプのレビューをしてもらい、一部のユーザーにも同様に利用してもらうとよいでしょう。またα版やβ版のようにリリースを段階的に行い、都度ユーザーフィードバックをもらうのも効果的です。

また、このタイミングでビジネスサイドと連携できていると、目標感のすり合わせにも効果的です。企画の大小によりプロトタイプのレビューまでできないケースもあると思いますが、デモを動画にとって連携したり、最終的なPRDを連携しておくだけでも一定の効果が見込めます。

上記の通り、①課題の把握と②課題の抽象化、②課題の抽象化と③ユーザー価値の企画、③ユーザー価値の企画と個別具体的なユーザー価値の創出と、それぞれの連関をしっかりと確認することで、最終的にユーザーファーストが実現するのです。

まとめ

ユーザーからの課題認識を起点に、主体(ビジネスサイド、プロダクトマネージャー)と対象(課題と価値)を通して、バトンリレーされ、最終的にユーザーファーストなプロダクトや、ひいては文化が醸成されていきます。この過程は思っている以上に、見ている目線や目標が異なるので、それぞれの連関が失われやすいです。 ユーザーファーストという標語を掲げるだけで、実現できるものではなく、ユーザー課題を起点に個々の連関をこだわり抜いた企業だけが手にできる果実なのです。

SaaSプロダクトマネジメント

著者について

宮田 善孝(みやた よしたか)。京都大学法学部を卒業後、Booz and company(現PwC Strategy&)、及びAccenture Strategyにて、事業戦略、マーケティング戦略、新規事業立案など幅広い経営コンサルティング業務を経験。DeNA、SmartNewsにてBtoC向けの多種多様なコンテンツビジネスをデータ分析、プロダクトマネージャの両面から従事。その後、freeeにて新規SaaSの立ち上げを行い、執行役員 VPoPを歴任。 現在、日本CPO協会理事、ALL STAR SAAS FUNDのPM Advisorに就任。米国公認会計士。『ALL for SaaS』(翔泳社)刊行。


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