Letter
2023年代表メッセージ
2023-1-24
昨年は経済や社会情勢の前提が大きく変動した1年でした。COVID-19に対するワクチン接種などの感染対策や蔓延リスク下における生活及び事業継続のための様々な施策推進によってグローバルサプライチェーンの正常化やインバウンド需要の増加など、経済活動の改善の兆しが見られるようになりました。一方で、ロシア・ウクライナ紛争による資源価格の上昇及びそれに付随する形での消費者物価指数の上昇、各国の金融引き締め政策などが連鎖的に発生し、様々なマクロ経済指標でボラティリティの上昇が観測されました。
株式市場においても新興IT銘柄の下げ幅は相対的に大きく、公開市場のみならず未公開市場における資金調達環境にも影響が広がり、前年に比べてスタートアップへの投資に慎重な姿勢を見せる投資家も少なくありません。一方で、JVCAによれば2022年の国内スタートアップ全体での資金調達額は総額8,000億円超と堅調に推移しており1、スタートアップ1社あたりの累積資金調達額及び参画株主数も増加しています。同時に未上場企業であっても上場企業に準ずるガバナンス体制や収益効率などへの期待度が高まっているように思われます。
そのような社会経済情勢にあるなかで、弊社ROUTE06では今期を企業価値を安定成長させるための土台づくりの1年とし、自社ならではの強みを再現性高く研鑽可能な体制の構築に注力する方針です。顧客企業向けのソフトウェアや各種サービスのみならず、自社の人事制度をはじめとした各種制度についても、日々の運用から得られる知見の蓄積及び改善に対して真摯に向き合う組織文化の構築に尽力してまいります。社歴の浅いスタートアップという枠を超え、これまで以上に多くのステークホルダーの皆様に信頼及び評価いただける企業へと飛躍していきたいと考えています。
自社を取り巻く市場動向
弊社を取り巻く業界動向を俯瞰してみると、経済情勢に対する不安は高まっているものの、前年以上にデジタル・トランスフォーメーションを重要戦略と位置付け、積極的なIT投資を継続する大手企業が多いように思われます。世界経済の実需は堅調に推移しており、足元の決算でも売上や利益で順調な進捗を見せる国内大手企業は少なくありません。そうした企業群が牽引する形でエンタープライズ領域のIT投資額も増加していくことが予想されます。IDC Japan社によれば国内エンタープライズIT市場は2023年には11兆9,983億円まで拡大すると予測されています2。
DXも短期的なブームを超えて、デジタル技術を活用した既存業務の効率化のみならず、ビジネスモデル転換を含有する言葉として認識されるようになりました。伝統的な大手企業が推進するDXプロジェクトにおいても、市場リサーチやAs Is/To Beの議論から具体的な「ものづくり」に進み、アジャイル型でのプロダクト開発による継続的なサービス改善及び事業成長を実現している事例を見かけることが増えました。一方で、全体を俯瞰してみるとDXにおいて重要である実践的な「ものづくり」を実現できる人材不足は年々深刻化しており、政府もそのような問題に対応すべく「デジタル田園都市国家構想基本方針(2022年6月7日閣議決定)」を掲げ、ビジネスアーキテクトやデータサイエンティスト、エンジニアやデザイナーなどの「デジタル推進人材」を2026年度末までに230万人育成を目指すことを公表しています3。現状においては社外の開発パートナーやベンダーへの依存度が高いものの、前年に比べてソフトウェアエンジニアやデザイナーなどの人材採用を積極的に行い、社内外のハイブリットチームによる推進体制の構築に注力していく大手企業も増えていくでしょう。
またDXの基盤となる様々なシステムについては、大手グローバル・ソフトウェアベンダーのSaaSやパッケージ等が依然として高いシェア及び影響力を誇るものの、大手企業のソフトウェアサービスへの需要及び受容性の変化からスタートアップ企業にもチャンスが広がっていることを感じます。エンタープライズ領域でも知名度や実績を考慮しつつも、ユーザービリティとコストのバランス、カスタマイズ性や開発チームのアジリティを加味したツール及びベンダー選定を目にする機会が増えました。社内にデジタル専門人材を抱え、様々な失敗と成功を経験した大手企業のDXチームが求める水準は高まる一方であり、デザイン、技術、ビジネスを総合したサービスレベルの向上とその改善速度がこれまで以上に問われる時代になっています。ものづくりに真摯な「デジタル推進人材」が集まり、高品質のプロダクト及びサービスを生み出すことのできる会社に、より多くのビジネス機会が集約していく流れは今後も加速していくと思われます。
今年度の指針
弊社ROUTE06は今月から新年度に入り、創業4年目を迎えます。昨年度は収益面でも組織面でも堅調な成長を遂げることができました。三菱商事様との部品調達マーケットプレイスに関する取り組み事例に始まり、シリーズAラウンドでの資金調達による新たな株主の参画、その後CTOの新設及び就任などを公表することができました。また公表実績や認知度に応じて様々な新規案件のご紹介や問い合わせをいただくなか、顧客企業の関係者の方々から他部署や他のプロジェクト、取引先や関係会社の方々などをご紹介いただく機会にも多く恵まれました。これまで弊社として実直に取り組んできたものづくりやサービス改善の積み上げが新しい機会に繋がることを実感できる一年でもありました。一方で、会社組織としても提供サービスとしても課題は多く、採用計画の見通しと実績のギャップによる機会損失なども少なからず発生しました。現状に真摯に向き合いつつも、今年度はよりステークホルダーの皆様に安定した価値を提供できるよう、以下の指針をもって会社全体の課題解決と成長促進に取り組んでまいります。
ものづくり文化
ROUTE06は「Be a disruptor / 優しい変革者であり続けよう」をコーポレートクレド(組織のあり方)とし、創業初期からチームそれぞれの個性や強みを活かすことで、大手企業のデジタル・トランスフォーメーションの実現に向け、最善を尽くしてまいりました。様々なバックグラウンドを持つメンバーが働いており、顧客企業の業種や課題も多様であるなか、変革を推進する実践的な「ものづくり」に真摯に向き合う文化が組織の共通項であり、弊社の大きな強みであると考えています。顧客向けのプロダクトやサービスのみならず、社内の人事制度からコーポレート関連の業務フローやシステムなど、組織から生まれるあらゆるプロダクト・サービス・制度づくりにおいて、自社ならではのこだわりを持って取り組んでまいりました(例:新入社員向けThe Day One Box)。エンタープライズに限らずDX領域における顧客企業を取り巻く事業環境や組織体制が絶え間なく変化する時代において、ソフトウェアサービスにかかる総合力及びアジリティの高さへの期待度は高まり続ける一方で、社員やパートナー個々人の働き方や専門分野も多様化していく構造にあります。そうした環境下で、創業初期から重視してきたリモートファーストな制度設計やソフトウェアエンジニアリングにおける分散型バージョン管理の思想を取り入れた全社ワークフロー(GitHubの全社業務での活用)の構築などの取り組みを積み重ねていくことが、顧客サービス・人材採用育成・業務効率化など様々な面での持続可能な価値創出かつ競争優位の源泉になると考えております。今年度はプロダクト開発のみならず、自社独自の目標制度(Company issues/CEO issues)や情報共有ツール(Handbook)をはじめとした様々な仕組みやツールの構築を通して、全社的な「ものづくり」文化の拡張に注力してく方針です。
サービスとソフトウェア
DXの重要テーマである大手企業のデジタル事業の垂直立ち上げを実現するために、ROUTE06では実践的なアジャイル開発を支援するプロフェッショナルサービスと、基盤となるバックエンドシステムやAPIを提供するプラットフォームサービスを提供しております。プロフェッショナルサービスに関しては、これまでも社内のプロダクトマネージャー・デザイナー・ソフトウェアエンジニアが一つのチームを構成し、顧客企業のビジネスに合わせたUX及びオペレーション設計、UIデザインからシステム設計及び実装、その後のグロースフェーズまで一気通貫で支援を行ってまいりました。そのなかでも特に、複雑性を内包するB2B領域でのクイックなオペレーション設計、UIやUXだけでなくロゴなどのクリエイティブを含めたデザインサービス、データ可視化・分析による改善提案などの実践力を顧客企業にご評価いただくことが多く、今年度はそれらのサービス水準をさらに高めるための体制拡充や顧客企業に還元できる知見の蓄積に注力していきます。またプラットフォームサービスについては、自社開発SaaSである「Plain」の強化を最重要経営論点とし、CTO直下のプロダクトデベロップメント本部を新設し、エンジニアリング体制をより一層強化していく方針です。足元では大手企業のB2B取引における受発注システムやクラウドEDIなどの需要増が顕著であり、製造業や商社などで働くエンドユーザー向けの多様かつ利便性の高い機能群の拡充に加え、フロントエンドやデザインのカスタマイズ性を高めるためのアーキテクチャ設計やAPI開発に注力してまいります。Plainは今後ERPのように幅広い業界・業務に提供範囲が広がるプロダクトであるため、目の前の顧客企業の顕在ニーズに素早く対応することを大切にしながらも、社内のプロダクト開発チームの中長期的なベロシティ向上に資する取り組みを積み上げていくことが最も重要であり、これが価格・品質・速度すべての点において高い顧客価値の提供に繋がると考えております。
スケーラブルな組織
昨年度はパーパス・クレドと共に、ワークスタイルとして社員に推奨する働き方の指針(Go root / 芯を向く、Connect anywhere / リモートファースト、06-committers / チームで紡ぐ)の明文化にも取り組んでまいりました。これらは会社組織において一般的に規定されるミッション・ビジョン・バリューとは少し異なり、本記事執筆時点において目標制度・人事評価・業務ルールに直接紐づけておらず、ドキュメントの公的な位置付けも推奨ガイドラインに過ぎません。ROUTE06では業界構造・社会文化などの大きなトレンドを見据えた上でのスケーラブルな組織づくりを実現するために、チームの多様なバックグラウントとライフスタイルに対する受容性を重視しています。必ずしも業務ルール・規定・基準の詳細化及び管理を強化するのではなく、指針となるガイドラインの明文化、議論及び決定プロセスの透明性の高い開示、具体的な制度や施策などのアウトプットの一貫性によって、自立的かつスケーラブルな組織文化を構築していきます。今年度はいずれの部門においても会社運営に関わる様々な制度や施策の策定及び改善を一つ一つ実直に積み上げていきたいと考えています。また情報セキュリティ・コーポレートガバナンス・財務/管理会計などに関しては、上場企業や大手企業の水準を超えることを目指し、コーポレート体制の強化と効率的な社内システムの構築に力を入れていく方針です。
上記のような指針のもとで、ステークホルダーの皆様にとってより価値のある企業となるべく、今年度も引き続き最善を尽くしてまいります。
著者について
遠藤 崇史(えんどう たかふみ)。東北大学大学院情報科学研究科を卒業後、株式会社日本政策投資銀行、株式会社ドリームインキュベータを経て、株式会社スマービーを創業、代表取締役CEOに就任。アパレル大手企業への同社のM&Aを経て、株式会社ストライプデパートメント取締役CPO兼CMOに就任。株式会社デライトベンチャーズにEIRとして参画後、ROUTE06を創業し、代表取締役に就任。