ROUTE06

Transformation

Okta:企業のデジタルトランスフォーメーションを支えるイノベーションと成長戦略

2024-12-10

ROUTE06 Research Team

シェア

Oktaは、クラウドアイデンティティおよびアクセス管理(IAM)市場のリーダーとして、企業がデジタルトランスフォーメーションを実現する上で重要な役割を担う企業の一つです。

2024年現在、Oktaは3.5億ドルを超える年間経常収益(ARR)を達成し、顧客基盤も拡大を続けています。クラウドやSaaS、マルチクラウド環境が一般化する中、企業のセキュリティ要件に応じた革新的なアイデンティティソリューションを提供し、「誰もが安全にどの技術でも利用できる世界を創る」ことを目指して、Workforce Identity & Access Management (IAM)とCustomer Identity Cloud powered by Auth0という2つの主要な柱を中心に製品を展開しています。

Oktaの成功の背後には、将来を見越したアイデンティティ管理分野への早期参入、革新的なプロダクトの提供、戦略的なパートナーシップと市場拡大のための買収など様々な戦略的要因がありました。これらによって、Oktaは急速に変化するデジタルセキュリティのニーズに適応し、優れたアイデンティティ管理ソリューションを顧客へ提供することで、市場におけるリーダーとしての地位を築くことに成功しています。

本記事ではOktaの成功を実現した戦略やプロダクトを解説していきます。

Oktaの成長の軌跡

Oktaの成長は、クラウドの普及とアイデンティティ管理分野での著しい技術発展に後押しされました。同社は2009年にTodd McKinnon氏とFrederic Kerrest氏によって創業されました。McKinnon氏は創業前はSalesforceでエンジニアリング部門で副社長を務めていましたが、クラウドアイデンティティの可能性に確信を持ち、自ら会社を設立するというリスクを取る決断を下しました(彼のこの決断は、経済危機と新たに始まった家庭生活の中で簡単なものではなく、妻に理解を得る必要があったと言います​)

Oktaの初期のミッションは、企業がクラウドベースのサービスに容易にアクセスできるようにするシングルサインオン(SSO)ソリューションを提供することでした。当時、多くの企業はオンプレミスのMicrosoft Active Directoryに依存しており、クラウドアイデンティティの必要性はまだ広く認識されていませんでしたが、Oktaは将来の需要と変化を見越して先手を打ちました。

その後2017年にIPOを果たしましたが、それ以降もOktaの企業価値は上昇を続けました。中でも、OktaのクラウドやSaaSアプリケーションに対応したアイデンティティ管理プラットフォームは、特に企業のIT部門の業務効率化に大きなインパクトを与えました。このプラットフォームは、堅牢なセキュリティを確保しながら、従業員や顧客がどこからでもアプリケーションにアクセスできる環境を実現するための重要なツールとなっています。

Oktaのプロダクトと革新性

Oktaは、Identity as a Service(IDaaS)市場において、革新的なプロダクトを展開しています。同社の主力製品であるOkta Identity Cloudは、企業が労働者や顧客に対するアイデンティティ管理を一元的に行うための強力なツールを提供します。このプラットフォームは、Workforce Identity & Access Management (IAM)とCustomer Identity Cloud powered by Auth0という2つの主要ソリューションで構成されており、どちらもクラウド上で提供されるため、高い柔軟性と拡張性を誇ります。

Workforce Identity & Access Management (IAM)

Workforce Identity & Access Management (IAM)は、企業の従業員やパートナーが複数のSaaSアプリケーションやクラウドサービスにシームレスにアクセスできるようにすることを目的としています。このプラットフォームは、SSO、多要素認証(MFA)、およびユーザープロビジョニングなど、現代のビジネス環境に不可欠なセキュリティ機能を包括的に備えています。たとえば、OktaのSSO機能は、従業員が一度ログインするだけで、さまざまな業務アプリケーションにアクセスすることを可能とし、これによって生産性の向上に寄与します​。

また、MFAはセキュリティの強化に欠かせない機能です。Oktaの多要素認証は、パスワードに加えて、ユーザーのデバイスや生体認証情報などを活用することで、従来の認証システムに比べて安全性を飛躍的に向上させています。このように、Oktaは常に最新のセキュリティプロトコルに対応し、エンタープライズのニーズに応じたセキュリティ対策を整備しているのです​。

Customer Identity Cloud powered by Auth0

Oktaのもう一つの主要なプロダクトであるCustomer Identity Cloud powered by Auth0は、企業が提供する顧客向けアプリケーションのセキュリティとユーザー管理をサポートするものです。このクラウドソリューションは、開発者が短期間で安全なアプリケーションを構築できるようにAPIを通じた支援を行っており、Oktaのプロダクトはこの市場においても強い存在感を見せています​。

たとえば、Oktaのプロビジョニング機能は、新しいユーザーを迅速に追加し、必要なアクセス権を適切に付与するプロセスを自動化します。これにより、エンドユーザーがシームレスかつ迅速にサービスにアクセスできるようになり、企業の顧客満足度の向上に繋がっています。また、Customer Identity Cloud powered by Auth0は、セキュリティの強化に加えて、ユーザーエクスペリエンスの改善を追求しており、サインインやアカウント管理のプロセスを簡素化しています​。

Okta Integration Network(OIN)

Oktaの強みの一つであるOkta Integration Network(OIN)は、優れた統合機能を提供するプラットフォームです。OINは7,000以上の外部クラウドサービスやSaaSアプリケーションと連携が可能であり、OktaユーザーがさまざまなクラウドサービスやSaaSにシームレスかつ安全にアクセスできる環境を実現しています。例えば、Microsoft 365、Slack、Salesforce、Amazon Web Services(AWS)、Google Workspaceといった主要なアプリケーションやサービスとも容易に連携可能で、企業の業務アプリケーションを統合的に管理できるのが大きな特徴です。

Oktaの連携は、単なるSSOにとどまらず、ユーザープロビジョニングやセキュリティモニタリング機能も提供しており、企業のIT部門が管理作業を効率化できる仕組みを備えています。例えば、ユーザープロビジョニングでは、新たなアカウントの作成からアクセス権限の割り当て、ユーザー削除までを一元管理し、不要な手作業を減らすことが可能です。また、セキュリティモニタリング機能は、不正アクセスの検知やリアルタイムのアクティビティ監視を行い、万が一のインシデントにも迅速に対応することができます。これにより、Oktaは顧客企業のIT管理を強力にサポートし、セキュリティリスクを低減しつつ効率的な運用を支えています。

OINはAPIベースのアプローチにより、ユーザーが求めるカスタマイズ性を実現しています。開発者や企業は、APIを活用して必要に応じた拡張機能を作成し、企業固有のニーズに対応したアプリケーション統合を可能にします。この柔軟性は、多様なエコシステムに適応し、企業のデジタル戦略に沿ったカスタマイズを実現するうえで大きな強みとなっています。

このような多機能かつ拡張性のあるプロダクトにより、OktaはIDaaS市場でのリーダーシップを一層強固なものとしています。Oktaは単なるユーザーIDやパスワードなどを管理するツールにとどまらず、包括的なアイデンティティプラットフォームとして、企業が直面する多様な課題に応える存在となっているのです。

Auth0買収による市場の拡大とさらなる成長

2021年、Oktaは65億ドルという巨額の資金を投じて、アイデンティティ管理ソリューションを提供するAuth0を買収しました​。この買収は多くの注目を集めましたが、背後には市場拡大という戦略的な狙いがありました。OktaとAuth0は、異なるアプローチで市場を攻略しており、Oktaはエンタープライズ企業が複雑なIT環境で従業員や顧客のアイデンティティを管理するためのソリューションを提供していました。一方で、Auth0は主に開発者をターゲットにし、アプリケーションの構築に必要なシングルサインオンや認証機能を簡単に統合できるAPIを提供していました。Oktaはこの買収によって、これまでの主戦場であったエンタープライズ市場だけでなく、開発者向けの市場においても強力なプレゼンスを確立することに成功しました。

両者の異なる市場とアプローチが、買収後のOktaの成長を支える大きなポイントとなりました。OktaはAuth0の技術を統合することで、より広範な市場に対応できるようになり、特にAPIベースのソリューションを求める開発者向けのニーズにも応えることができるようになったことで、Oktaは新たな市場に進出し、開発者とエンタープライズの両方にとって魅力的なプラットフォームを構築することに成功したのです​。

OktaとAuth0の統合効果

OktaとAuth0の統合によって、OktaはIAM市場での競争力を一段と強化しました。Auth0の技術は、Oktaの製品ラインに対する優れた補完的な役割を果たしており、特に顧客アイデンティティ管理の分野で大きな成長が期待されています。Auth0は開発者フレンドリーなツールを備えており、これによりOktaは、企業が独自のアプリケーションにセキュリティを組み込むための柔軟なAPIを活用できるようになりました。

この統合により、Oktaは従来のエンタープライズ向けアイデンティティ管理と、開発者向けツールの両方を担う「ワンストップソリューション」としての地位を確立しました。この戦略は、顧客がアイデンティティ管理を効率化し、セキュリティを強化するためのより包括的な選択肢を得られるようになっています。さらに、Auth0の買収によって企業の成長を支える基盤を強化し、急速に変化する市場環境にも柔軟に対応できるようになっています。

戦略的なパートナーシップによる影響力の拡大

Oktaは、自社のキャパシティによる成長だけではなく、戦略的なパートナーシップを通じて顧客の獲得や市場での影響力を拡大しています。同社は、獲得可能な最大市場規模(TAM)を800億ドルと見積もっており、その広大な市場を開拓するために、パートナーシップを重要な柱と位置づけています​。 その一環として、Oktaはパートナーシップを以下の6つの主要カテゴリー(システムインテグレーター(SIer)、ディストリビューター、リセラー、クラウドサービスプロバイダー(CSP)、テクノロジーパートナー、マネージドサービスプロバイダー(MSP))に分けて展開しています​。これによって、Oktaは多様な業界に対応できる柔軟なエコシステムを構築しパートナーとの協業によってOktaの製品・サービスは幅広い地域や業界に展開されることを可能にしています​。

テクノロジーパートナーとの統合

Microsoft、Google、AWSをはじめとする大手テクノロジー企業との連携は、顧客がアイデンティティ管理ソリューションを多様なSaaSやクラウドサービスと連携して利用できるようにするための重要なポイントとなっています。この連携によってOktaの顧客はさまざまなSaaSやクラウドサービスへシームレスかつ安全にアクセスすることができ、これらのサービスを効率的に管理する環境が整います。

大手テクノロジー企業とのパートナーシップにより、Oktaは顧客に対してスムーズなセキュリティ管理とアクセス制御を提供し、例えばMicrosoft 365やGoogle Workspace、AWSなどのプラットフォーム上での安全性を確保しています。これにより、Oktaの顧客は全アプリケーションとデータに対するアクセス権を統一して管理することができ、セキュリティリスクが低減され、IT運用の効率化も図ることができます。 さらに、Oktaはこれらの大手企業のみならず、エンドポイントセキュリティやクラウドセキュリティなど特定分野に強みを持つセキュリティベンダーとも提携しています。こうした連携により、Oktaの顧客はアイデンティティ管理とその他のセキュリティ機能を統合し、さまざまなサイバー脅威に対して多層的な防御を施すことが可能です。 また、Oktaはテクノロジーパートナーと定期的な情報交換や共同トレーニングを実施しており、急速に進化するサイバーセキュリティ分野における新たな脅威に迅速に対応する体制を築いています。こうした協力体制により、Oktaのプラットフォームは他のツールやシステムと互換性を高め、顧客がすでに導入しているIT環境とも円滑に統合できる仕組みが整っています。

世界各国のSIやリセラーとの協業

Oktaは、グローバル市場での成長を目指し、世界各国のシステムインテグレーター(SI)やリセラーとの協力も積極的に進めています。幅広い地域での市場拡大を推進し、各国のローカルパートナーとの提携を通じて地域特性に合わせた柔軟なアプローチを行うことで地域に応じた顧客ニーズに対応することが可能になっています。

Oktaのグローバルパートナーシッププログラムでは、リセラーに対して特別なバッジを付与する施策を導入しています。要求基準を満たしたパートナー企業に与えられるこのバッジは、Oktaのソリューションを効果的に提供できる能力の証明となり、顧客は信頼を持ってサービスを受けられるようになります。パートナー企業にとっても、Oktaの高い技術力と信頼力を活用して、グローバルでアイデンティティ管理ソリューションを提供できる体制が整います。Oktaのパートナーシップ戦略は多様なアプローチにより国際的な影響力を広げ、企業に効率的なデジタルセキュリティとアイデンティティ管理の包括的なソリューションを提供しています。これにより、Oktaはエンタープライズ市場での顧客基盤を強化し、さらなる成長を目指しています。

まとめ

Oktaは、IDaaS市場において確固たる地位を築き、企業のセキュリティとデジタルトランスフォーメーションを支える重要な役割を果たしてきました。Workforce Identity & Access Management (IAM)とCustomer Identity Cloud powered by Auth0という2つの柱を中心に、企業の複雑なニーズに応える包括的なアイデンティティソリューションを展開しています。

2021年に行ったAuth0の買収により、Oktaはデベロッパー向け市場にも進出し、より広範な市場にアプローチすることができるようになりました。また、Oktaはパートナーシップを積極的に活用し、システムインテグレーターやクラウドプロバイダーとの連携を強化することで、技術的な統合の幅と深さをさらに高め、競合他社との差別化を図ることにも余念がありません。

今後Oktaは市場の変化に対応し、さらなる成長を目指すために継続的なイノベーションを実現する必要があります。サイバーセキュリティの脅威がますます複雑化する中、Oktaが展開する高度なアイデンティティソリューションは、企業のデジタルセキュリティにおいて引き続き重要な役割を果たすことが期待されています。今後も同社はR&Dに注力し、より多くのクラウドサービスやアプリケーションとの連携機能によって市場でのリーダーシップを維持し、さらなる成長を実現することが求められます​。

本記事では、Oktaの成長を実現した主要な戦略を紹介しました。本記事が皆様の事業戦略やその実行を検討する際の一助となれば幸いです。

参考文献

AI(人工知能)リスク分析DNSサイバーセキュリティビッグデータクラウドコンピューティングデータセキュリティデジタルトランスフォーメーション

著者について

ROUTE06では大手企業のデジタル・トランスフォーメーション及びデジタル新規事業の立ち上げを支援するためのエンタープライズ向けソフトウェアサービス及びプロフェッショナルサービスを提供しています。社内外の専門家及びリサーチャーを中心とした調査チームを組成し、デジタル関連技術や最新サービスのトレンド分析、組織変革や制度に関する論考、有識者へのインタビュー等を通して得られた知見をもとに、情報発信を行なっております。


新着記事

Transformation

プロダクト開発におけるこれからの要件定義

要件定義は、プロダクト開発の成功を左右する重要なプロセスです。効率性や柔軟性を追求し、DX時代の価値創造を支える新しい視点を探ります。

詳細