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国内SaaS市場の次なるステップ:Growth期に求められるプロダクト戦略

2024-6-10

宮田 善孝 / Yoshitaka Miyata

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Horizontal SaaSが普及し、Vertical SaaSも出始めて、各業界の一定のプレイヤーがPMFを獲得し始めているのが国内のSaaS界隈の状況でしょう。

この状況下において、SaaS業界ではPMF関連については非常に厚く議論されてきました。ただその後のGrowth期についてはこれから議論されていく領域だと思います。そこで、本記事ではシリーズA-B辺りで、一定のターゲットセグメントに対してPMFを獲得したスタートアップや新規事業のProduct leaderが考えておくべきことを列挙し、解説していこうと思います。

Growth期とは

そもそもGrowth期とはスタートアップや新規事業を進めていく上で、どのようなフェーズなのでしょうか。

上図で示した通り、コアとなるターゲットセグメントにおいてPMFが実現した後に迎えるものになります。そのため、一定の受注率、導入率を担保した上で、マーケティング、体制を強化し、シェアの獲得を狙うタイミングになります。

ProductにおけるGrowth期とは

このGrowth期において、プロダクトとして何を担保しなければならないのか、プロダクトビジョン、プロダクトの展開と基盤、プロダクト組織の3つに分けて説明していきます。

1.プロダクトビジョン

最初に、プロダクトビジョンです。抽象度が高い概念ゆえ、様々な視点からクリアすべき要素があります。

  • MVV起点で、Growth期を乗り切れるプロダクトビジョンができていること
  • Growthしていく上で、十分なTAMが言語化できていて、ソリューションの方向性が見えていること(向こう2−3年やらないこととコアが明確か)
  • Biz leaderとその方向性が擦り合っていること
  • Growthに適したプライシングになっていること

最初に、MVV(Mission, Vision, Value)起点で、Growth期を乗り切れるプロダクトビジョンができていることが挙げられます。会社として資本的にも人的にも踏み込み、Growthに乗り出すことになるため、組織として一段高いアラインメントが求められます。プロダクト観点で言うと、Growth期を乗り切れるだけのプロダクトビジョンの言語化ができているかが最初のチェックポイントになります。

単にプロダクト組織においてアラインメントが取れていればよいわけではなく、Growthしていく上でBusiness-sideとの連携が不可欠です。Growthしていく上で、十分なTAMが言語化できていて、ソリューションの方向性が見えていること(向こう2−3年やらないこととコアが明確か)を確認する必要があります。当然ですが、Biz leaderとこの方向性がしっかり擦り合っており、一蓮托生で取り組むことができている必要があるでしょう。

さらに、この方針は開発ロードマップやソリューションの設計というレベル感だけではなく、ユーザーに提供していく上で、プライシングも包含します。Growthを狙う上で、高すぎず、安すぎず、WTP(Willingness To Pay)に即したプライシングができていることを確認することになります。

上記の通り、プロダクトビジョンがMVVとの整合性、十分なTAMの捕捉、Business-sideとのすり合わせ、最後にプライシングにまで反映されていること、この4点がチェックポイントになります。

2. プロダクトの展開と基盤

次に、一定のユーザーセグメントにおいてPMFが確認できると、複数プロダクト展開や他業種への展開を並行して模索することになります。Growthを維持していく上で3つのポイントがあります。

  • 複数プロダクト展開する場合、どこまで基盤化すれば良さそうか議論し、優先順位の考え方がドラフトされつつあること
  • Horizontalなら攻めるべき業界などのセグメントが明確で、埋めるべき機能差分が見えていること(複数プロダクト展開なら上に同じ)
  • Growthしていく上で、極端なユースケースやユーザー数に耐えられる準備がプロダクトとしてできていること

まず、複数プロダクト展開する場合、どこまで基盤化すれば良さそうか議論し、優先順位の考え方が明確にする必要があります。単に2つ目、3つ目のプロダクトを展開していくという考え方もありますが、データを中心にプロダクトの共通部分を基盤化していくことが一般的です。

2点目は、Horizontalなら攻めるべき業界などのセグメントが明確で、埋めるべき機能差分が見えていること(複数プロダクト展開なら上に同じ)です。Vertical SaaSでもよりエンタープライズな企業に提供していこうと思うと、一定の機能拡張が必要になりますが、Horizontal SaaSの場合、業種を超える必要があり、追加要件が出てくる可能性が高いです。その要件を補足し、しっかりロードマップに乗せ、開発を進めていくことが不可欠です。

最後に、Growthしていく上で、極端なユースケースやユーザー数に耐えられる準備がプロダクトとしてできていることが挙げられます。これは、上記2点に比べると、見落としがちですが、ユーザーセグメントを広げていく上で、今まで想定していなかった極端なユースケースが出てきます。定期的にパフォーマンスなどを確認しておくべきでしょう。

3.プロダクト組織

最後に、組織面です。Growth期になると、プロダクト戦略が多様化します。戦略に応じて組織を拡張していく必要があり、PMF期と打って変わって組織構築に向けたアクションが必要になり始めます。

  • プロダクト戦略実現に向け、差分となるProduct Managementチームのcapabilityを明確にし、採用、異動のアクションが取れていること
  • ジュニア層が入ってくることを想定し、ユーザフィードバックの収集プロセス、ロードマップやPRDのフォーマットができていて、運用できていること
  • この時期忙しくなるProduct leaderが非線形の成長や新しいことを考え、試せる余裕があること

Growth期になると、PMF期のようにCEOやCTO、エースPM(Product Manager)が一人頑張って、ブレークスルーを出せばよいという話ではなく、組織として機能させ、Growthを手繰り寄せる必要が出てきます。特にSaaSの場合、Growthさせていく手段が多く、PMの多様性が求められ始めます。プロダクト戦略実現に向け、プロダクトチームの現状と理想を明確にし、そのGapをどのように埋めていくのか考え、具体的にアクションしていくことになります。

またGrowth期には一定のリソースが必要になるため、全員シニアなPMで揃えられる企業は少ないでしょう。そのため、ジュニアPMが入ってくることを想定し、主要なドキュメントのフォーマット化や、予算やロードマップのような定期的に策定しなければならないものをきちんとプロセス化しておくことも重要です。

最後に、Growth期に入ると、CPOやVPoPにタスクが寄ってしまい、ボトルネックになってしまうことが多いですが、新しいことを始める起点でもあるので、常に権限委譲を行っていくこともGrowthを維持していく上で忘れてはならないポイントです。

実際SaaSをサポートしていて思うこと

改めて書き出して見ましたが、1.プロダクトビジョンのプライシングや3.組織周りの論点が後回しになる傾向が強い気がします。プライシングは営業企画やPMMが考えるだけではなく、バンドリングとの連関も深いため、PMも関与すべきでしょう。

また、プロダクトマネージャーはプロダクトを通して価値創出したい人が多い傾向にありますが、Growth期は一歩引いて組織、仕組みの重要性が高まるタイミングです。一点突破でPMFを狙い、実現するのとは異なり、基盤やパフォーマンスなども拾いきり、Growthしていく上でのボトルネックを潰していくアプローチの重要性が高まります。そのため広く、ディフェンシブな視点で戦略を構築し、それを実現していく組織を作り上げていく必要があるのです。

まとめ

国内のSaaSにおいて議論の焦点はPMFにありますが、当然その後Growthも重要であり、同等以上の検討、試行錯誤が必要です。

このタイミングでは一点突破型の思考よりもディフェンシブでもれなくしっかり対応仕切るという視点の重要度が高まり、対応の網羅性や実現する上での組織構築が主要な論点となります。Product Leaderの役割が質的に変化し、その手腕が問われるタイミングかもしれません。

SaaSプロダクトマネジメント

著者について

宮田 善孝(みやた よしたか)。 京都大学法学部を卒業後、Booz and company(現PwC Strategy&)、及びAccenture Strategyにて、事業戦略、マーケティング戦略、新規事業立案など幅広い経営コンサルティング業務を経験。DeNA、SmartNewsにてBtoC向けの多種多様なコンテンツビジネスをデータ分析、プロダクトマネージャの両面から従事。その後、freeeにて新規SaaSの立ち上げを行い、執行役員 VPoPを歴任。現在、Zen and Companyを創業し、代表取締役に就任。シードからエンタープライズまでプロダクトに関するアドバイザリーを提供。ALL STAR SAAS FUNDのPM Advisor、およびソニー株式会社でSenior Advisorとして主に新規事業における多種多様なプロダクトをサポート。また、日本CPO協会立ち上げから理事として参画し、その後常務執行理事に就任。米国公認会計士。『ALL for SaaS』(翔泳社)刊行。


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