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PLGの成果を引き寄せる鍵、PQLの重要性

2024-3-15

宮田 善孝 / Yoshitaka Miyata

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SaaSを中心としたBtoBのプロダクトが普及し、新たにProduct-led Growth(以下、PLG)という概念が浸透しつつあります。これまでBtoCのプロダクトでは、マス向けのプロダクトが多く、できるだけシンプルなユーザストーリーに留め、プロダクト起点でGrowthしていくことが前提でした。この概念がBtoBで発展し、PLGとして認知され始めています。本記事ではPLGに焦点を当て、その成長の鍵を握るProduct Qualified Lead(以下、PQL)の取り扱い方について紹介していきます。

PLGの類型の解説

PLGとはSaaSを中心としたBtoBプロダクトにおけるGo to Market戦略の1つで、ユーザ獲得、アクティベーション、リテンションをプロダクトそのものが担うことを指します。具体的には、フリーミアム、フリートライアル、デモの3つの主要な類型が存在します。

フリーミアムとは、製品の基本機能が無料で提供され、ユーザーのニーズに応じて追加機能やサポートを活用する時に初めて課金される仕組みのことを指します。フリートライアルは一定期間プロダクト全体を無料で利用でき、この期間にプロダクトを試し、その後、ユーザーは有料プランに移行するかどうかを判断してもらうことになります。最後に、デモです。最も想起しやすいのはSalesが見込み顧客に対して個別にプロダクトの紹介を行うことです。他にもプロダクト紹介のWebinarや動画を準備することもありますし、HP上にプロダクトの一部を操作できるように組み込むこともあります。

どの類型にも共通するのは契約前段階で、プロダクトを試すことができ、その上で契約するかどうかを判断できる余地を顧客に留保していることにあります。

また、獲得観点だけでなく、Customer Success Management(以下、CSM)の取り組みをチュートリアルとしてプロダクトに組み込むことで、プロダクト起点でChurn Rateを低く留めることもできます。

PLGに対して、Sales-led Growthという概念があり、これは従来通り、Salesにより商談を行い、受注するプロセスのことを指します。PLGに対して、Salesが対応することでより高価なプロダクトを販売することができます。また、Salesの説明を介在することでまだ市場として確立していない領域の開拓が可能になります。

他方、PLGは高いACVは見込みにくいですが、広くターゲット顧客にリーチすることができます。特に市場として認知されている場合、効率的にLead獲得ができます。

PQL(Product Qualified Lead)の定義と重要性

SaaS業界が盛り上がり、SaaS企業が増えていくと、当然競争が熾烈になり、顧客の獲得コストが向上していきます。また、顧客にも変化が見られます。各社がホワイトペーパーを提供したり、Webinarなどの展開により、顧客が自ら学び、比較できるような素地が整ってきました。さらにPLGの普及によりフリーミアムやフリートライアルができるプロダクトが増え、購入を決める上で、非常に強いインプットになってきています。

そこで、PQLという概念が出始めています。これはプロダクトを事前に試し、価値を理解したLeadを指します。MQL(Marketing Qualified Lead)や、SQL(Sales Qualified Lead)と同様に基本的な顧客情報を取得できます。逆にMQLとSQLと全く異なるポイントとして、実際のプロダクトの利用動向を確認できることが挙げられます。つまり、これまで通りターゲットセグメントかどうかを判別し、さらにプロダクトの利用動向から課金に繋がりやすいか分析を通して判別することができるのです。

エンタープライズ向けのプロダクトではなく、SMB向けのプロダクトで、より潜在顧客数が多いHorizontal SaaSで、特に相性がよいです。というのもフリーミアムを展開することで広くリーチでき、その上でプロダクトの利用動向から特に購入意欲が高い顧客を見出し、優先的にアプローチすることできるからです。

SQLとPQLの比較

SQLとPQLを比較すると、以下のように整理できます。

当たり前のことですが、SQLは営業が介在することで、より難しい業務課題を抱えている顧客に当たったり、新しい市場を作りに行くようなプロダクトを説明し、訴求することができます。そのため、ACVは比較的高くなりやすいですが、逆にLead獲得しにくく、営業を重ねることでしか受注を蓄積できません。

他方、PQLはフリーミアムやフリートライアルで展開し、顧客によるセルフ課金、セルフサーブを前提とすることも少なくなく、あまり複雑なプロダクトや新規性が強いプロダクトを訴求することは難しく、ACVが低いプロダクトでしか展開が困難になります。その分、Lead獲得しやすくなり、プロダクトの利用動向も踏まえ、社内で解析を行うだけで受注確度が高い見込み顧客から当たることができるのです。

PQLと顧客獲得戦略の統合

PQLを導入していく上で、ただPLGの前提となるフリーミアムやフリートライアルをProduct-sideが提供すればよいだけではありません。

フリーミアムやフリートライアルがLead Generatorとなるべく、Marketingと連携し、どこまでフリーミアムとして提供するのか、どの程度期間トライアルしてもらうのかを設計した上で、ターゲットに訴求するメッセージングを一緒に検討していくことになります。Marketingだけでなく、営業ともProduct-sideは連携することになります。PQLからユーザーとしての利用動向を得られるため、PQLから上がってくるユーザーフィードバックは今後のプロダクト改善をしていく上で重要なインプットとなります。

さらに、CSMがサポートしている内容を定型化し、チュートリアルとして置き換えることができれば、究極的にはプロダクトだけで導入を進められるようになります。より導入しやすいプロダクトを目指す上で、CSMとの連携は不可欠でしょう。

まとめ

PLG、PQLと相性の良いHorizontal SaaSの領域はTAMが大きく寡占できると、強いプレイヤーが生まれやすく、周辺領域をM&Aや新規事業展開で拡張を進めていきます。しかし、そのような領域は基幹プロダクトと比較すると、手薄になりがちで、熱意のこもったStartupによるワンポイントソリューションが十分ひっくり返すポテンシャルを持っています。

国内のTAMはあまり大きくないことから、PLGの導入が本格化していないように思います。しかし、Horizontal SaaSの領域に新しいプレイヤーが出始めています。彼らがもう一度、フリーミアムやフリートライアルを通して獲得できるPQLを見直すことで、寡占プレイヤーとの競争優位を築く1つの手法になるかもしれません。

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著者について

宮田 善孝(みやた よしたか)。 京都大学法学部を卒業後、Booz and company(現PwC Strategy&)、及びAccenture Strategyにて、事業戦略、マーケティング戦略、新規事業立案など幅広い経営コンサルティング業務を経験。DeNA、SmartNewsにてBtoC向けの多種多様なコンテンツビジネスをデータ分析、プロダクトマネージャの両面から従事。その後、freeeにて新規SaaSの立ち上げを行い、執行役員 VPoPを歴任。現在、Zen and Companyを創業し、代表取締役に就任。シードからエンタープライズまでプロダクトに関するアドバイザリーを提供。ALL STAR SAAS FUNDのPM Advisor、およびソニー株式会社でSenior Advisorとして主に新規事業における多種多様なプロダクトをサポート。また、日本CPO協会立ち上げから理事として参画し、その後常務執行理事に就任。米国公認会計士。『ALL for SaaS』(翔泳社)刊行。


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