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プロダクトマネージャーへのキャリアパス
2023-5-26
プロダクトマネージャーはミッションやビジョンに基づき、ユーザー課題を特定し、それをプロダクトという形に落とし込み、企画を具体化します。そして、デザイナーや開発チームを巻き込みながら、開発を推進し、リリース及び効果検証も担当します。この役割を一手に引き受けるにはかなり幅広い知識や経験が求められます。
ユーザー課題に真摯に向き合い、企画を通して解決を設計できるという役割であることから、昨今プロダクトマネージャーになりたいという方は増加の一途を辿っているように思います。 しかし、今プロダクトマネージャーを名乗っている方は決して用意されたレールを進み、プロダクトマネージャーになったのではなく、いろいろ経験しているうちに、いつの間にかプロダクトマネージャーになっていた方が大半です。
そのため、プロダクトマネージャーに関するノウハウは徐々に整備されつつありますが、そのなり方について整理されたものはありません。同時に、未経験からプロダクトマネージャーへの門戸はかなり限定されているのが現状です。このような現状を踏まえ、本記事では私がこれまで協働してきたプロダクトマネージャーのバックグラウンドやプロダクトマネージャーになった背景を元に、プロダクトマネージャーへのキャリアパスの類型化にチャレンジします。
概要
プロダクトマネージャーのなり方は非常に多岐に渡ります。異動、転職、留学からのチャレンジ、さらにバックグラウンドをかけ合わせると、その経路は多種多様です。ここでは、社内異動、未経験からの転職、アカデミックからのチャレンジという3つに大きく分けて、プロダクトマネージャーへの転身を整理し、詳述していきます。
1. 社内異動によるチャレンジ
エンジニアからの異動
まず、プロダクトマネージャーと最も協働する業種としてソフトウェアエンジニア(以下エンジニア)が上げられます。プロダクトマネージャーの目線からエンジニアを見ると、技術ドリブンな方とユーザードリブンな方に別れます。
前者は企画に対してどのような技術を駆使して、実現するのかにこだわりを強く持った方を指し、後者は要件を鵜呑みにせず、ユーザー感覚を深くヒアリングし、理解してからできるだけ簡潔に作ることを意識された方です。後者の方はどう作るかだけではなく、なぜ作るのか、何を作るのかに強い関心があり、この関心が強まり、最終的にプロダクトマネージャーへの門戸を叩くことが多いように思います。
また、人工知能(AI)/機械学習(ML)を駆使したプロダクトの場合、AI/MLエンジニアの経験がなければ、プロダクトマネージャーを担うことができないということもあります。他にもログインや課金、データ基盤など、インフラ系やAPI PFといった領域は、社内のエンジニアがユーザーであることも多く、エンジニアバックグラウンドが強く求められる領域といえます。
デザイナーからの異動
企画を具体化していく上で、UI/UXは非常に強力なコミュニケーション手段です。そのため企画段階でプロダクトマネージャーはデザイナーと協働することが多いのではないでしょうか。
特にUI/UXが企画の成否を分けるようなプロダクトの場合、デザイナーからの異動が多いです。例えば、UGCを中心にしたB2Cのプロダクトが挙げられます。ECやメディアなどと比較し、UGCは一定複雑なユーザーアクションが求められますが、そのアクションを多くのユーザーに行ってもらわれなければ、プロダクトとして成立しません。そのためプロダクト成否がUI/UXが握っていると言っても過言ではないのです。
また、SaaSを中心にしたB2Bのプロダクトでは、長らくUI/UXにこだわりをもったプロダクトが少なかったと思います。そのため、UI/UXの進化が差別化を生みやすい状況になっています。この状況に気づいたスタートアップを中心に、強いこだわりのもとプロダクト開発を推進している事例を徐々に見聞きするようになって来ています。
アナリティクスからの異動
アナリティクスはプロダクト全体のビジネス進捗の把握や収益構造の理解を行うのはもちろん、ユーザー動向まで細かく分析することが求められます。プロダクトマネージャーとは、企画を進める上での事前リサーチと、リリース後の効果検証で協働することになります。
1年も分析を担当していると、時としてプロダクトマネージャーよりもプロダクトの全体像やユーザー動向に詳しくなります。場合によって、プロダクトマネージャーから仕事をもらうのではなく、プロダクトマネージャーに知見を共有し、ロードマップや大きな方針の叩きを作れてしまうこともあります。すでに状況を深く理解しているのに、自分の意思で変えられないのは歯がゆく、気づいたら企画を考えていて、後追いでプロダクトマネージャーに転じることになるのです。
私自身、過去2度ほど、アナリティクスやデータマイニングを担当していた時期があるのですが、その後2回ともプロダクトマネージャーに転じています。かなり高いモチベーションと全体感を踏まえチャレンジできるので、オススメの経路の1つです。
ビジネスサイドからの異動
B2Bではプロダクトをリリースしても、自然とユーザーが手に取り使い始めてくれることは稀有です。そのため、マーケティング、セールス、カスタマーサクセスなどのビジネスサイドが分担しながらユーザーに届けてくれます。
この過程の中で、ユーザーの業務内容を深く理解し、失注要因や、導入するときのボトルネックを目の当たりにし、ユーザーニーズの把握と改善、追加機能案が出てきます。ビジネスサイドの中には、これらをプロダクトマネージャーに伝えるだけではなく、自分で企画を練り上げ、ユーザーに届けたいという思いを持った方々が出てきます。このような方々がドメインとユーザー理解を武器にプロダクトマネージャーに転じるのです。
B2Cでもメディアなどのマーケティングによりグロースしやすいプロダクトや、仕様が複雑なサインアップや課金周りなどは、それぞれマーケティングやカスタマーサポートから異動しやすい領域だと思います。
2. 未経験からのチャレンジ
メガベンチャーにおける新卒プロダクトマネージャー
プロダクトマネージャーが30人以上いるようなメガベンチャーだと、トレーニングが充実し、未経験からでもプロダクトマネージャーにチャレンジする基盤ができているケースがあります。このような場合、新卒であってもインタビューの過程や内定後のインターンの場でそのポテンシャルが認められれば、プロダクトマネージャーにアサインされることがあります。素直さと地頭に学びの環境を提供できれば何にでもなれるので、プロダクトマネージャーもその例外ではありません。
ただ新卒プロダクトマネージャーに注意が必要なのは、既存のバックグラウンドがないので、自分が何系のプロダクトマネージャーなのか、迷子になる傾向が強いです。できるだけ早めにロールモデルを見つけ、どういうタイプのプロダクトマネージャーになりたいのか言語化と実践を併せて進めていくとよいと思います。
ポテンシャルドリブンなプロダクトマネージャー
新卒プロダクトマネージャーだけでなく、全くの未経験にも関わらず、中途でプロダクトマネージャーをポテンシャルだけで受け入れるケースがあります。新卒というプレミアムがないので、より門戸が狭まり、より高い地頭と素直さ、さらにコミットメントが求めれます。
少し噛み砕いて説明すると、プロダクトマネージャーは解くべきユーザー課題を設定し、ニーズを言語化した上で、ソリューションを具体化していきます。そして、プロダクトマネージャー1人ではプロダクトを作ることはできません。そのため、抽象度の高いテーマをデザイナーやエンジニアなどチームメンバーにわかりやすくコミュニケーションする必要があります。これらはプロダクトマネージャーとして最も基本的な業務ですが、高度な思考能力と素直な対応が求められるのです。これらの要件はプロダクトマネージャーに限らず、別業界や別業種にチャレンジするときに、共通して求められることかもしれません。
創業期の企業に参画したら、いつの間にかプロダクトマネージャーに
創業期のスタートアップに参画すると、一定の役割分担はありつつも明確な業務分担というより、目の前の課題をお互い拾いあって解決していくことになります。このようなフェーズで、なんらかの成果を出すと、仕事が集まってくるようになります。そして、気付いたらプロダクトマネージャーとしての役割を担っていたということが少なからずあるのです。
この経路は少し先細ってきているように思います。というのもプロダクトマネージャー自体が市民権を得つつあり、スタートアップにおける1人目のプロダクトマネージャーの採用はトピックの1つとして認識されています。このような背景を踏まえると、気付いたらプロダクトマネージャーになる前に、プロダクトマネージャーを採用してしまう傾向にあると言えるでしょう。
中途入社からいきなりプロダクトマネージャーにチャレンジ
社内異動によるチャレンジとして説明しましたが、エンジニア、デザイナー、アナリティクス、ビジネスサイドからいきなりプロダクトマネージャーに転職してしまうケースも一定数あります。
それぞれのファンクションでの経験が生きる領域については異動ではなく、転職でも可能性はるのです。ただし、もちろん社内評価を糧にチャレンジできる異動に比べ、他社に違う職種であるプロダクトマネージャーに転職することは、当然ハードルは上がります。
CEOにチャレンジ
プロダクトマネージャーの役割はユーザー課題を見出し、解決することです。単なる職種ではなく手段として質的に異なりますが、起業し、会社という枠組みの中で同じことを実現することもできます。つまり、もし解決したいユーザー課題とパッションがあるのであれば、プロダクトマネージャーという職種にこだわらなくても、起業してしまえば否応がなくともプロダクトマネージャーとしての役割を担うことになるのです。
プロダクトマネージャーはmini-CEOと言われますが、この手法は名実ともにCEOとしての職責を負うので、当然かなりハードな道にはなります。ただ、企業やポジションに左右されることなくプロダクトマネージャーとしての役割を担うことができます。
3. アカデミックからのチャレンジ
番外編として、海外だと学部でコンピューターサイエンスを専攻し一度社会人を経験した後、MBAに行ってプロダクトマネージャーに転じるケースがレールとして確立している模様です。例えば、GoogleがMBA卒をAssociate Product Managerとして受け入れ、1年間のトレーニングプログラムを提供しているのは有名な事例です。
さらに、昨今ではNew York UniversityやCarnegie Mellon UniversityでDiploma programとして、プロダクトマネジメント専攻のMBAコースが用意されています。まだ卒業生とコミュニケーションしたことはなく、その実態はつかめていませんが、有用な経路の1つになるかもしれません。
日本のプロダクトマネジメントに関するコースはまだかなり限定的ですが、海外には多岐に渡るプロダクトマネジメントに関するコースが展開されています。例えば、ライトなものだと、General Assemblyでやっているプロダクトマネジメントコースが挙げられます。また、Ivy leagueのMBAもプロダクトマネジメントのオンラインコースを提供してくれています。
私もいくつか受講しましたが、プロダクトマネジメントを体系的に学ぶにはかなり有用な手段だと思います。数万円から数十万円で受けられますし、コースによってはCertificateや単位を取得できるものもあります。MBAの教授でGAFAMの顧問等を歴任されている方に教えてもらうと、知見だけでなく、気持ち新たに取り組むきっかけにもなると思います。
ポイント
プロダクトマネージャーになる経路は無数にあります。手堅く行くなら、すでにプロダクトマネージャーへの異動の実績が多い企業で、プロダクトサイド、エンジニアやデザイナーで入社し、しっかり実績を積んで、異動をリクエストしていくことが一番王道だと思います。もちろん、入社してすぐ手を挙げるのではなく、異動の場合はとにかく現ポジションでしっかりパフォーマンスすることが不可欠です。
プロダクトマネジメント人材が足りないと巷では言われているにも関わらず、なり方が確立していないので、その門戸は狭まれています。にも関わらず、プロダクトマネージャーになりたいという人は非常に多い状況です。つまりプロダクトマネージャーになりたいというだけでは他の候補者と差別化できず、その一歩として現ポジションでの実績を積み、プロダクトマネージャーの適正があることと、コミットメントを伝えていかなければならないのです。
また、未経験からのチャレンジでまとめたように、ドメインや地頭によるポテンシャルに自信がある方は、それらの強みを活かしやすい企業にプロダクトマネージャーのポジションが空いていないか逐次チェックすると良いと思います。
特にドメインとプロダクトマネジメントの双方の経験がある方は、競合企業にしかいません。そのため未経験に対する門戸が比較的広いことが多いので、すかさずチャレンジすることをオススメします。 さらに、すでに解きたい課題とパッションを持っている方や、とにかく自信がある方は、いきなりCEOやMBAから海外でプロダクトマネージャーになる道に挑戦しても面白いかもしれません。
まとめ
プロダクトマネジメントという概念は普及の一途を辿っており、プロダクトマネージャーになりたい方は増加し続けています。しかし、その門戸はかなり限られているのが現状です。
ではプロダクトマネージャーにはなれないのかというそうではありません。開発やデザインの知見、ユーザー理解、ドメイン知識、ポテンシャルなど、プロダクトマネージャーに異動する糸口は無数にあります。また、異動だけでなく、未経験からのチャレンジもあります。 プロダクトマネージャーへの転身を検討するに辺り、上述の経路を1つ1つ眺め、キャリア構築の一助となれば、これほど嬉しいことはありません。
著者について
宮田 善孝(みやた よしたか)。 京都大学法学部を卒業後、Booz and company(現PwC Strategy&)、及びAccenture Strategyにて、事業戦略、マーケティング戦略、新規事業立案など幅広い経営コンサルティング業務を経験。DeNA、SmartNewsにてBtoC向けの多種多様なコンテンツビジネスをデータ分析、プロダクトマネージャの両面から従事。その後、freeeにて新規SaaSの立ち上げを行い、執行役員 VPoPを歴任。現在、Zen and Companyを創業し、代表取締役に就任。シードからエンタープライズまでプロダクトに関するアドバイザリーを提供。ALL STAR SAAS FUNDのPM Advisor、およびソニー株式会社でSenior Advisorとして主に新規事業における多種多様なプロダクトをサポート。また、日本CPO協会立ち上げから理事として参画し、その後常務執行理事に就任。米国公認会計士。『ALL for SaaS』(翔泳社)刊行。