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Zapier:独自のコンテンツマーケティングが築いた自動化プラットフォーム

2024-9-13

ROUTE06 Research Team

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Zapierは2011年に設立され、7,000以上のビジネス・アプリケーション間の自動化を可能とするプラットフォームを提供するスタートアップです。ユーザーはZapierを利用することでタスクの自動化をはじめとしたビジネス活動や業務の効率化が可能となり、またノーコードでワークフローを生成・自動化できるため、同社のプロダクトはプロシューマーやSMBを中心に高い評価を得ています。

API時代のニーズに応えたプロダクトによってZapierは成長を遂げ、ユーザー数は300万人、ARRは2.3億ドル(約350億円:1ドル150円換算)にまで規模を拡大しました。2014年以降は毎期黒字を継続し、実質的にブートストラップ(資金調達はシードラウンドでの130万ドルのみ)で成長を続ける稀有なスタートアップであり、直近のセカンダリー取引では50億ドル(約7,500億円:1ドル150円換算)という高いバリュエーションで評価されました。

そして、こうした成功の背景には、彼らが創業初期から注力し続けた独自のコンテンツマーケティングの存在がありました。本記事では、Zapierの成長の原動力となったコンテンツマーケティングを紹介します。

戦略的なSEO活用

Zapierのグロースエンジンとなったのは、SEO(検索エンジン最適化)を活用した効果的かつ効率的なユーザー獲得戦略です。Zapierは、ユーザーが検索する特定のニーズに対して、的確で実用的なコンテンツを提供することに注力しました。例えば、「SalesforceとGmailを連携させる方法」や「SlackとGoogle Sheetsの自動化」といった具体的なユーザーの課題に対する解決策を提供する記事やチュートリアルを多く作成しました。

こうしたコンテンツは、特定の検索キーワードを狙い撃ちし、検索エンジンで上位に表示されるように最適化されています。これにより、ユーザーが検索エンジンで関連するキーワードを検索した際に、Zapierのコンテンツが上位に表示されるため、自然検索経由で多くのトラフィックを獲得しました。特に自社が提供する「自動化ツール」関連のキーワードでZapierが第一想起を獲得したことは、Zapierのビジネスとマーケティングにおいて非常に強力な追い風となりました。

また、ZapierはAPIが盛り上がりを見せる時代において、万能な「Switchboard」としてのポジションを早期に確立することに成功しました。利用者が様々なSaaSツールと連携する場合に開発やその後のメンテナンスに頭を悩ませることなく、Zapierとだけ連携すれば済む、というメッセージは強力なGTMフックとなりました。Zapierを利用することで企業は自社のコアとなる業務と成長に注力できるようになりました。こうした巧みなポジショニングによって、Zapierは市場での存在感を増すことに成功したのです。

スケーラブルなコンテンツ作成

Zapierは、SEOに依存するだけでなく、魅力的なコンテンツ作成とその規模の拡大にも力を入れています。これには、ユーザーが自らZapierのプラットフォーム上で作成した「Zap」(自動化のワークフロー)に基づいた成功事例や、Zapierを利用することで業務をどのように効率化したかといった具体的なストーリーが含まれます。たとえば、ある中小企業のオーナーが、Zapierを活用して数十時間かかっていた手動のデータ入力作業を完全に自動化し、その結果、ビジネスの成長に集中できるようになった等の顧客事例が多くありました。

このようなユーザーの実体験をもとにしたコンテンツは、新規ユーザーにとって大きなインスピレーションになると同時に、Zapierのプラットフォームがどれほど多様なニーズに対応できるかを示す何よりの証拠となりました。また、Zapierのコンテンツは製品そのものに焦点を当てるのではなく、顧客がどのように製品を利用して成功を収めたかという点によりフォーカスしています。こうしたコンテンツは顧客自身をヒーロー/ヒロインとすることで、顧客により強いプロダクトへの愛着をもたらすと同時にリピーターを増やすことに貢献しました。

さらに、ZapierはLP(ランディングページ)を細かく設計し、それぞれのページで具体的なユースケースを強調しました。これは、ZoomやSlackなどの人気ツールとの連携方法を紹介することで、ユーザーが直面する課題に即した解決策を提示するためです。多くのアプリパートナーがいるZapierには70,000以上のLPがあると言われており、異なるアプリ間の自動化の可能性を示すことで幅広い検索クエリを捉えています。こうしたスケーラブルなコンテンツ生成プロセスによって、月間アクセスの多くがオーガニックによるものと言われています。

データ駆動型のアプローチ

Zapierのコンテンツマーケティングにおける重要な点は、そのデータ駆動型のアプローチです。Zapierは、ユーザーの行動データや検索データをもとに、どのようなコンテンツが最も効果的かを分析し、改善を繰り返しました。このプロセスにより、コンテンツの精度が向上し、ユーザーのエンゲージメントやKPIは大きく向上しました。

特に、特定の業種や業務プロセスに特化したコンテンツを作成することで、当該ターゲットセグメントに的確にリーチすることができました。例えば、法律事務所向けに特化した「Zap」の使用例や、eコマースビジネスにおける売上データの自動化事例など、具体的なニーズに合わせたコンテンツを提供することで、より精度の高いターゲティングが可能となり、コンバージョン率の向上に繋がりました。

また、ZapierはA/Bテストやユーザーインタビューも積極的に実施し、どのコンテンツが効果的か評価することを重視しました。実際に、ある時期に実施されたA/Bテストでは、タイトルに具体的な数値を含めたコンテンツがより高いクリック率を達成したことが明らかになり、その後のコンテンツ戦略に反映されました。このようなデータに基づく改善の積み重ねが、Zapierのコンテンツマーケティングの鍵となっています。

フリーミアムと連携したコンテンツ

Zapierの成長において、フリーミアム戦略も重要な役割を果たしました。Zapierは、ユーザーが無料で基本機能を利用できるようにする一方で、高度な機能や追加のサービスについては有料で提供しました。フリーミアムモデルとして、ユーザーはZapierの価値を実際に体験することができるため、これに教育や紹介コンテンツを掛け合わせることで、無料ユーザーを有料ユーザーへとコンバートする流れを加速させることができました。

具体的には、Zapierは無料ユーザーに向けて、製品の高度な利用方法や有料機能の価値を紹介するコンテンツを配信し、彼らが有料プランにアップグレードする動機を与えました。無料ユーザーに対して、Zapierを使って複雑なワークフローを自動化する方法を解説するウェビナーを開催し、その中で有料プランの利点を紹介することで、ユーザーのLTVが向上し、成長へと繋がったのです。

なお、Zapierは初期のβ版を無料ではなくあえて有償で提供したという興味深いエピソードもあります。機能が十分に揃っていない製品にあえて100ドルという比較的高額の料金を設定したことで、時間と手間を惜しまない真剣で質の高い少数のユーザーを惹きつけました。この結果、Zapierは高品質なフィードバックを顧客から得ることができ、プロダクトマーケットフィット(PMF)の検証を早期に行うことができました。これは比較的多くのβ版プロダクトが無料や低価格で提供されることが多い中で、非常に対照的なアプローチでしたが、その効果は大きなものでした(その後は徐々に値下げし、現在の価格となっています)。

コミュニティが支えるコンテンツ

Zapierのマーケティング戦略の柱は、コミュニティとの密な関係や連携にあります。Zapierは、自社のブログやコミュニティを通じて、ユーザーが自身の経験や「Zap」の利用方法を共有できる場を多く提供しました。こうしたコミュニティ主導のコンテンツ生成により、ユーザーはZapierのサービスをさらに深く理解し、自身の業務にどのように活用できるかを学ぶことができました。

例えば、Zapierにはユーザーが自身の「Zap」を他のユーザーと共有し、その設定方法や使用ケースについてコメントしたりディスカッションする場が設けられています。あるユーザーが「Zap」を使用して人事管理システムを自動化し、その成果を他のユーザーと共有したことで、多くのユーザーが同様のプロセスを導入するきっかけとなりました。このようなコミュニティ内でのノウハウや体験の共有が、Zapierのサービスの価値を高める原点となっています。

Zapierはこうしたユーザーによるコンテンツを活用して、公式のチュートリアルやガイドラインを強化しました。例えば、ユーザーがフォーラムで提案した新しい「Zap」のアイデアを公式ガイドに追加し、さらに多くのユーザーがその価値を享受できるようにしました。こうした連携によって、ユーザーがより効果的にZapierを活用できるようサポートし、彼らの成功体験を増幅させました。

また、Zapierはパートナーマーケティングにも力を入れています。Zapierは綿密なパートナープログラムを用意しており、そのエコシステムには非常に多くのアプリパートナーが存在します。Zapierは新しいパートナー向けにテンプレート化されたLPをプログラムで自動生成し、パートナーにLPコンテンツの作成を推奨するなど、パートナーと積極的な共同マーケティングを行っています。パートナーが作成する質の高いコンテンツは、アプリパートナー自身のユーザー数の増加とZapierのプラットフォームとしての価値向上に繋がっています。

まとめ

Zapierは未来の成長も見据えています。連携するアプリケーションを増やしプラットフォームとしての価値を高めることを大事にしつつ、足元ではAI機能を搭載したβ版をリリースしています。ユーザーは自然言語でのプロンプトをチャットボットに入力することでワークフローを生成することが可能となり、ノーコードxAIによる更なるプロダクト体験の向上が図られています。

これまで見てきた通り、Zapierの成長において、ユニークで戦略的なコンテンツマーケティングとその実行は大きな成長エンジンとなりました。SEOを戦略的に活用しオーガニックでの流入を最大化、データに基づいたコンテンツでユーザーエンゲージメントを高めることで、Zapierはマーケティング費用を抑えながら、効率的かつ力強い成長を実現しました。

今後もZapierはプロダクトやコミュニティを中心にユーザーに高い価値を提供し続け、さらなる飛躍を遂げることが期待されています。その中でも、Zapierのコンテンツマーケティングは引き続き重要な役割を果たしていくでしょう。

参考文献

SaaSマーケティングコンテンツマーケティングSEOコンバージョン率最適化(CRO)ランディングページ最適化グロースハックA/Bテストスタートアップスケールアップグロース

著者について

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