ROUTE06

Platform

AI時代のプラットフォーマー:Hugging Faceの成長戦略

2024-8-27

ROUTE06 Research Team

シェア

人工知能(AI)技術が急速な発展を見せる昨今において、その中心的な存在として注目を集めているのがHugging Faceです。絵文字のロゴが印象的なHugging Faceは、世界中の開発者や企業から高い支持を得ており、生成AI時代における新たなプラットフォーマーとして、AIや機械学習の民主化とオープンソースソフトウェアを体現する存在でもあります。

本記事では、Hugging Faceのこれまでの歩み、成長に向けたユニークな戦略、そして今後の展望について探ります。

目指すのは「機械学習のGitHub」

Hugging FaceはClément Delangue、Julien Chaumond、Thomas Wolfの3名によって2016年に創業されました。創業初期にはAIを活用したティーンエイジャー向けのAIチャットボットアプリの開発を行っていましたが、その過程で自然言語処理(NLP)のためのオープンソースライブラリを無料公開したところ、開発者から高い支持を得たため、AIコードリポジトリ・モデル・データセットなど、多くのAI開発ツールを提供する開発プラットフォームの提供へピボットを行いました。CEOのDelangue氏は当時を「自分たちでも驚くほど爆発的な支持を獲得した」と振り返っています。

Hugging Faceは「機械学習の民主化」というミッションのもと、AIの力を解放し、誰もが簡単にAIにアクセスして活用できるようにする世界を目指しています。Hugging Faceは、AIの進歩が特定の企業や研究機関だけでなく、世界中の開発者やリサーチャーによって推進されるべきだと考えているのです。

Hugging Faceの中核サービスはAIモデルとデータセットであり、このプラットフォームでは、世界中の開発者や研究者が自作のモデルやデータセットを公開し、他のユーザーがそれらを自由に利用・改良できる環境を提供しています。特に自然言語処理の分野で強みを持ち、BERT、GPT、T5などの最先端のLLMモデルが利用可能です。

Hugging Faceとコミュニティによって提供されているオープンソースのライブラリ「Transformers」は、最新のNLPモデルを簡単に実装できるツールとして広く利用されており、PyTorchやTensorFlowなどの主要な機械学習フレームワークとシームレスに連携が可能です。さらに、モデルのトレーニングや推論を行うためのクラウドインフラストラクチャも提供しており、これにより、個人や小規模な開発チームでも大規模なAIプロジェクトに取り組むことが可能になりました。

Hugging Faceは1万以上の顧客、プラットフォーム上には5万以上の組織が存在し、モデルハブは100万以上のリポジトリをホストしていると言われます。同社はAI・機械学習の領域において、ソフトウェア開発のプラットフォーム「GitHub」のような圧倒的ポジションを築くことを目指しています。

技術的/戦略的な優位性がもたらす価値

Hugging Faceが世界中の開発者から圧倒的な支持を得ている理由は、その技術的優位性にあります。

まず、Transformersライブラリの使いやすさと柔軟性が挙げられます。このライブラリは、複雑なAIモデルの実装を数行のコードで可能にし、開発者の生産性を大幅に向上させることに寄与します。また、モデルのバージョン管理や再現性の確保が容易なことも大きな強みです。Gitベースのバージョン管理システムを採用することで、モデルの進化を追跡し、必要に応じて過去のバージョンに戻すことが可能となっています。

Hugging Faceの優位性は、単一の技術やサービスにとどまりません。むしろ、オープンソースコミュニティからの強力なサポート、最新の研究成果の迅速な実装、そして使いやすいAPIとツールの提供という、複数の要素が相乗効果を生み出しています。Hugging Faceが最新のAI研究動向をキャッチアップし、新しいモデルやアーキテクチャをいち早くプラットフォームに取り入れることで、ユーザーは常に最先端の技術にアクセスが可能となります。

Hugging Faceのアプローチと著しい成長は、投資家からも非常に高い評価を受けています。2023年8月には、Salesforce Venturesをリード投資家として2億3500万ドル(1ドル150円換算で約350億円)のシリーズDラウンドを行い、バリューションは45億ドル(約6,750億円)を超えたと報じられました。この資金調達には、Alphabet (Google)、Amazon、Nvidiaなどのテクノロジー業界のメガプレイヤーが複数参加しており、その注目度の高さを示しています。

この45億ドルのバリュエーションは、Hugging Faceの売上高の約150倍相当にも上ると報じられており、非常に高い水準にあります。足元の多くの上場SaaS企業のPSRが5〜10倍程度であることを鑑みると、Hugging Faceの将来性と成長期待は相当高いものがあります。また他の未上場AIスタートアップと比較しても、その評価は高く、例えば同じくAI分野で注目を集めるPerplexityの直近評価額が約25〜30億ドルであることを踏まえると、Hugging Faceの評価の高さが分かります。

なお投資家には、前述の大手テクノロジー企業に加えて、Sequoia Capital、Coatue Management、Lux Capitalなどの著名VCも名を連ねています。彼らがHugging Faceに投資する理由も足元の収益性だけでなく、機械学習の民主化という大きなビジョンへの共感と、それを実現する技術力と戦略があるためと推察されます。

Hugging Faceの成長戦略

Hugging Faceの成長戦略の根幹は、開発者コミュニティの支持獲得にあります。短期的な売上高よりも開発者からの根強い支持を得ることに注力するこのアプローチは、短期的には収益化を遅らせるものの、中長期的には強力なネットワーク効果を生み出し、持続可能な成長をもたらすことが期待されます。

加えて、オープンソースへの全面的なコミットメントは、Hugging Faceの重要な柱になっています。自社開発のツールやライブラリをオープンソースとして広く公開することで、世界中の開発者や研究者が自由に利用や改良できる環境を整えています。この結果、コミュニティ主導でイノベーションが促進され、プラットフォームとしての価値が継続的に向上する好循環を作ることに成功しています。

一方で、GAFAMを含む大手テクノロジー企業との戦略的なパートナーシップも見逃せません。例えば、Microsoftとの提携により、Azure上でHugging Faceのモデルを簡単にデプロイすることが可能となっています。またAmazonとは、AWS Marketplaceを通じてHugging Faceのサービスが提供されるようになりました。

こうしたクラウドプロバイダーとのパートナーシップは、Hugging Faceに幅広い顧客基盤へのアクセスを提供すると同時に、大手企業の持つ膨大なリソースやインフラストラクチャを活用する機会をもたらしています。一方で、こうしたテクノロジー企業にとっても、Hugging Faceが持つAI技術や活発なデベロッパーコミュニティへのアクセスは大変魅力的なものです。

Hugging Faceは売上と利益の成長を加速させるためのビジネスモデルを構築しており、企業向けに一部有償サービスを提供する一方で、個人開発者や小規模チーム向けを中心に多くの機能を無料で提供し続けています。このバランスのとれたアプローチにより、コミュニティと企業の成長を両立させています。

また、Hugging FaceはAI教育にも力を入れており、Webサイト上でAIに関する充実したドキュメンテーションやチュートリアル、学習コースを無償提供することで、新たな開発者の参加を促し、コミュニティの拡大と多様化を図っています。これは、中長期的にはAI人材の育成にも貢献し、業界全体の発展にも寄与する取り組みと言えるでしょう。

広がる領域と今後の展望

Hugging Faceの今後の戦略は、AIの利用領域をさらに拡大し、より多くの産業・分野・製品でAIの力を活用できるようにすることにあります。その一環として、2023年5月にはServiceNowと共同で、オープンソースのコード生成AIモデル「StarCoder」をリリースしました。このモデルは、80以上のプログラミング言語に対応し、コーディングタスクを支援する強力なツールとなっています。

また、Hugging Faceは生成AIの倫理的な開発と使用にも注力しています。AI技術の発展に伴い、プライバシーや公平性、透明性などの課題がクローズアップされていますが、Hugging Faceはこれらの問題に積極的に取り組んでいます。例えば、バイアスの少ないデータセットの作成や、AIモデルの判断プロセスを説明可能にする技術の開発などの取り組みに力を入れています。

さらに、マルチモーダルAIの開発にも注力しています。テキストだけでなく、画像や音声、動画などを統合的に理解し処理できるAIモデルの開発を進めており、これによりAIの応用範囲がさらに広がることが期待されています。

Hugging Faceは、機械学習の民主化というミッションをさらに推し進めるため、利便性の高いツールやプラットフォームの開発にも力を入れています。例えば、コーディングスキルがなくてもAIモデルを作成・トレーニング等できるノーコードソリューション(Hugging Face AutoTrain)の開発などが進められています。

まとめ

Hugging Faceは、機械学習・AIの民主化とオープンソースソフトウェアの中心的な存在として、著しい成長を遂げています。そして、これまで見てきたように、その中心にあるのは、開発者コミュニティを中心に据えた戦略と、最先端のAI技術を誰もが使いやすい形で提供するというミッションです。

高い技術力と使いやすさを併せ持ったプラットフォーム、活発なコミュニティ、オープンソースへのコミットメント、大手企業との戦略的パートナーシップなど、Hugging Faceの強みと先行優位は多岐にわたります。これらの要素が生成AI活況の時代と相乗効果を生み出し、高い企業評価につながっています。

今後、Hugging FaceはマルチモーダルAIの開発、NVIDIAと提携して展開するスーパーコンピューティングなど、新たな領域にも積極的に進出していく方針を示しています。同時に既にAIエコシステムにおいて大きな存在であるからこそ、倫理的なAIの開発と使用にも注力し、技術の進歩と社会的責任のバランスを取りながら成長を続けることが期待されています。

Hugging Faceの成功は、コミュニティの支持とオープンソースいうアプローチがAI時代においても、引き続き重要であることを示しています。AI技術の発展と普及の中で、Hugging Faceが果たす役割は今後ますます大きくなっていくと共に、同社がAIの時代をどのように形作っていくのか、今後も注目していきたいと思います。

参考文献

AI(人工知能)ML(機械学習)自然言語処理(NLP)スタートアップSaaS生成AI画像生成テキスト生成ディープラーニング画像認識需要予測オープンソーステキストマイニングプラットフォームSaaS

著者について

ROUTE06では大手企業のデジタル・トランスフォーメーション及びデジタル新規事業の立ち上げを支援するためのエンタープライズ向けソフトウェアサービス及びプロフェッショナルサービスを提供しています。社内外の専門家及びリサーチャーを中心とした調査チームを組成し、デジタル関連技術や最新サービスのトレンド分析、組織変革や制度に関する論考、有識者へのインタビュー等を通して得られた知見をもとに、情報発信を行なっております。


新着記事

Management

CCPAコンプライアンス: 米国でのデータプライバシー戦略と対応

本記事では、企業が遵守すべきCCPAの概要とその影響を解説し、今後の規制強化に向けた対応の重要性を説明します。

詳細